焼き芋の食中毒

はじめに

秋から冬にかけて、焼き芋を買ったり、家で焼いたりする機会が増えますよね。

食べきれずに残った焼き芋を前に、「昨日の焼き芋、まだ食べられるかな?」「なんだか酸っぱい気がする」と迷ったことはありませんか。

食中毒の面で気をつけたいのは、焼いた後の扱いです。食中毒の原因になる菌は、見た目やにおいを変えないまま増えていることがあるため、「見た目で判断する」だけでは足りません。

本記事では、焼き芋の食中毒を防ぐために知っておきたいことを、食品安全委員会や厚生労働省などの資料をもとに、わかりやすくご説明したいと思います。腐っているときのサイン、焼いた後に常温に置く時間の目安、温め直しでは消えない毒素などを、順に取り上げます。

扱う範囲は、焼いた後(買った後)の焼き芋が中心です。生のさつまいもの黒い斑点や芽、切り口から出る白い液については要点にとどめ、詳しく解説した記事をご案内します。

また、冷蔵・冷凍で何日くらいもつかの目安は、焼き芋の日持ちを保存方法ごとに解説した記事でまとめています。

虫めがねで調べるイラスト

【結論】焼き芋の食中毒は「焼いた後の扱い」で防ぐ

焼き芋の食中毒で気をつけたいのは、焼いている最中より、焼いた後に常温で置いておく時間です。

さつまいもの皮に付いた土には、焼いても生き残る菌が含まれていることがあり、焼き芋がゆっくり冷めていく間に増えることがあります。まずは、押さえておきたい4つのポイントをまとめます。

  • 焼いた後、常温に置くのは2時間までを目安にする(気温が32℃を超えるときは1時間まで)
  • アルミホイルで包んだまま、常温に置かない
  • 温め直しても消えない毒素がある
  • カビ・異臭・ぬめり・苦みがあれば食べない。ただし、これらがなくても安全とはかぎらない

迷ったときは「見た目」より「保存の履歴」で判断する

焼き芋が食べられるかどうか迷ったときは、見た目やにおいより先に、「焼いてから(お店の保温器から出してから)どれくらい時間がたったか」「どこに、どうやって置いていたか」を思い出してください。

この「保存の履歴」で判断するのが、安全側の考え方です。

焼いた後の状況目安根拠
焼いてから(保温器から出してから)間もないできるだけ早く食べる。常温に2時間を超えて置かない米国農務省
常温に2時間以上置いた(気温32℃超なら1時間以上)食べずに処分することをおすすめします米国農務省
アルミホイルで包んだまま、常温で長く置いた食べずに処分することをおすすめします米国の食中毒事例(下記)・米国疾病予防管理センター
焼いてから2時間以内に冷蔵庫に入れた早めに食べきる(日数の目安は別記事で)冷蔵までの時間:米国農務省/早めに食べきる:厚生労働省
いつ焼いたか分からない食べない当サイトの判断(厚生労働省の呼びかけをもとに)
市販品で消費期限などの表示がある表示された期限と保存方法に従う厚生労働省

2時間という目安は、米国農務省食品安全検査局(USDA FSIS)によるものです。同局は、傷みやすい食品は2時間以内に冷蔵庫に入れ、気温が90°F(約32℃)を超えるときは1時間以内にするよう示しています。さらに、室温に2時間を超えて置いた傷みやすい食品は捨てるよう呼びかけています。

当サイトが参照した厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」には、常温に置く時間の具体的な上限は書かれていません。同資料は、「調理前の食品や調理後の食品は、室温に長く放置してはいけません」「時間が経ち過ぎたら、思い切って捨てましょう」と呼びかけています。当サイトでは、安全側の目安として米国農務省の時間を用いています。

腐ってる・傷んでる焼き芋のサインと、見た目では分からないこと

焼き芋が腐っているかどうかを見分けたいとき、カビやにおいなどのサインは確かに手がかりになります。

ただし、サインがないからといって安全とはかぎりません。ここでは、食べないほうがよいサインと、見た目では分からないことを分けてご説明します。

食べないほうがよいサイン

次のようなサインがある焼き芋は、食べないでください。これらは「腐っているかどうかの診断」ではなく、「食べない理由」として考えるのがポイントです。

  • カビが生えている(白・緑・黒など、色は問いません)
  • 酸っぱいにおい、いつもと違うにおいがする
  • ぬめりがある、糸を引く
  • 強い苦みやえぐみ、いつもと違う味がする

ただし、味についてのサインは、食べている途中で異常に気付いたときのためのものです。安全かどうかを確かめるための味見はしないでください。厚生労働省は、少しでも怪しいと思ったものは口に入れないよう呼びかけています。米国疾病予防管理センター(CDC)も、ボツリヌス菌の毒素は見た目・におい・味では分からず、少し味見するだけでも命に関わることがあると説明しています。

食べ始めてから異常に気付いたときは、飲み込まずに食べるのをやめ、残りも食べないでください。

カビは、見えている部分を取り除いても食べられるようにはなりません。農林水産省は、餅に生えたかびを例に説明しています。かびの部分を取り除いても「見えるかびがなくなったに過ぎません」とし、見えないかびが内部や表面に残っている可能性があるとして、食べずに捨てるよう呼びかけています。

酸っぱさについては、「焼き芋が酸っぱいのは腐敗以外の理由による」と説明する記事を見かけることがあります。しかし、その説明を裏付ける一次情報は、当サイトの調査では確認できませんでした。

仮に腐敗以外の理由で酸味が出ることがあるとしても、家庭で区別する方法はありません。酸っぱいにおいや味がする焼き芋は、食べないでください。

苦みについては、さつまいもが傷や病気に反応して作る成分が関係していることがあります。詳しくは、後半の「苦い焼き芋・さつまいもは食べない」でご説明します。

サインがなくても安全とはかぎらない

上のサインがないことは、安全の証明にはなりません。これが、この記事で特に大切なポイントです。

食中毒の原因になる菌は、食品の見た目やにおい、味をほとんど変えないことがあります。米国農務省は、病気を起こしうる有害な細菌は「見ることも、においを嗅ぐことも、味わうこともできない」と説明しています。

厚生労働省も、ラップに包まれた食品など、きれいに見えるものにも食中毒菌がいる場合があるとして、「外見だけで安心せず」衛生的に扱うよう呼びかけています。

そのため、見た目やにおいに異常がなくても、常温に長く置いたものや、いつ焼いたか分からないものは食べないでください。判断は、見た目ではなく、上の「保存の履歴」の表を目安にしてください。

さつまいもの「黒い部分」は見た目で原因を決めない

焼き芋や生のさつまいもにある「黒い部分」が気になって、調べている方もいらっしゃると思います。黒くなる原因は1つではなく、見た目だけで見分けるのは難しいのが実情です。

生のさつまいもの黒い部分には、次のような原因が知られています。

  • 切り口から出る白い液(ヤラピンを含む乳液)が、空気に触れて黒く変わったもの
  • 切った断面が、ポリフェノールの酸化で茶色く変わる「褐変(かっぺん)」
  • さつまいもを冷やしすぎたときに起こる傷み「低温障害」
  • 黒斑病(こくはんびょう)という、カビによる病気

このうち黒斑病にかかったさつまいもでは、苦み成分が作られることがあります。一方で、初期の病斑はほかの変色と見分けにくく、家庭で原因を特定することはできません。黒い部分があって原因が分からないときは、食べないという選択をおすすめします。

ヤラピンについて、コープこうべ商品検査センターは、成分そのものについて「食べても健康に害はありません」と説明しています。ただし、これは成分についての説明です。皮に付いている黒いものがどれもヤラピンだとは、見た目だけでは決められません。

焼いた後の焼き芋に見られる黒ずみや緑色の変色は、上の4つとは別の仕組みが関係することがあり、この記事では原因を特定しません。「食べないほうがよいサイン」がある場合や、保存の履歴が分からない場合は、食べないでください。

気になる症状ごとに、詳しく解説した記事を下の表にまとめました。

気になること考えられる原因の例(見た目では決められません)詳しく解説した記事
皮に付いた黒い付着物、切り口から出る白い液ヤラピンを含む乳液が黒く変わったもの などヤラピンを解説した記事
皮や断面の黒い斑点、くぼんだ黒い病斑低温障害、黒斑病 などさつまいもの黒い斑点を解説した記事
切った断面が茶色くなる褐変 などさつまいもの黒い斑点を解説した記事
さつまいもの芽が出た—さつまいもの芽を解説した記事
焼いた後の黒ずみ・緑色別の仕組みが関係することがあるこの記事の「食べないほうがよいサイン」と「保存の履歴」の表

加熱だけでは防げない食中毒

見た目やにおいに異常が見当たらない場合でも、焼き芋の食中毒のリスクがなくなるわけではありません。

「しっかり焼いたのだから、菌は死んでいるはず」と考えがちですが、食中毒の原因になる菌の中には、この考え方が通用しないものがあります。その理由は、「芽胞(がほう)」と「熱に強い毒素」という2つのキーワードで説明できます。

  • 芽胞:一部の細菌は、生育に適さない環境になると、菌の中に「芽胞」という、熱や乾燥に強い構造を作ります。食品安全委員会によると、ウエルシュ菌の中には、100℃で1〜6時間加熱しても生き残る芽胞を作るものがあります。ボツリヌス菌の芽胞にも、耐熱性が高く、非常に強い加熱条件を必要とするタイプがあるとされています(同委員会の資料の表では、このタイプの芽胞の耐熱性は「120℃、4分」)。芽胞は、育ちやすい環境になると、再び増え始めます。
  • 熱に強い毒素:細菌の中には、増える過程で毒素を作るものがいます。セレウス菌が食品の中で作る嘔吐毒(おうとどく)は、126℃で90分加熱しても失活しないとされています(食品安全委員会)。一度作られると、温め直しても消えません。

この2つの性質は、焼き芋にかぎらず、加熱した食品全般に共通するものです。オーブンや石焼きでしっかり焼いた焼き芋でも、「焼いたから、もう菌の心配はない」とは言い切れません。

つまり、焼き芋が食中毒の原因になりうるのは、焼いている最中よりも、焼いた後に常温でゆっくり冷めていく時間です。焼いても生き残った芽胞が、冷めていく途中で目を覚まして増え、毒素を作ることがあるからです。

だからこそ、この後の章でご説明する「焼いた後の扱い」が大切になります。

加熱だけでは防げない理由:熱に強い芽胞と、温め直しても消えない毒素

焼き芋で注意したい3つの菌(ボツリヌス菌・セレウス菌・ウエルシュ菌)

ここでは、芽胞の形で加熱を生き延びることがあり、加熱した食品を常温に置いたときに問題になりうる3つの菌をご紹介します。

なお、焼き芋そのものが原因と特定された国内の食中毒事例は、当サイトの調査では確認できませんでした。以下は、加熱した食品を常温で置いたときに起こりうることとして、公的資料で知られている菌の性質です。

注意をうながすイラスト

ボツリヌス菌:アルミホイルで包んだまま置かない

ボツリヌス菌は、土や川、海などに広く存在する菌で、芽胞を作ります。食品安全委員会は、果物や野菜が土を介して芽胞に汚染されることがあると説明しています。この芽胞は、酸素の少ない状態に置かれると芽を出して増え、毒素を作ります。

焼き芋で気をつけたいのが、アルミホイルで包んで焼き、そのまま常温で置いておくことです。

1994年、米国テキサス州エルパソで30人が発症し、うち4人が人工呼吸器を必要とするボツリヌス食中毒が起きました。報告した論文(Angulo ほか、The Journal of Infectious Diseases、1998年)によると、原因はレストランで出されたディップ(ペースト状の料理)でした。材料のじゃがいもをアルミホイルで包んで焼いた後、そのまま室温で数日にわたって置いていたとみられ、その間に毒素ができたとされています。

この事例はさつまいもではなく、じゃがいもです。ただし、「焼いた芋をホイルで包んだまま常温に置く」という点は、焼き芋にも当てはまる扱い方です。

米国疾病予防管理センター(CDC)も、アルミホイルで包んで焼いたじゃがいもは、60℃(140°F)以上に保つか、ホイルをゆるめて冷蔵庫に入れるよう呼びかけています。

食品安全委員会によると、ボツリヌス食中毒の潜伏期間は、一般に8〜36時間(早い例では5〜6時間、遅い例では2〜3日)です。多くの患者で初期に吐き気や嘔吐、下痢などが見られ、次いで、かすみ目、ものが二重に見える、飲み込みにくい、ろれつが回らないといった神経の症状が現れるとされています。進行すると呼吸が困難になり、死に至ることもあります。

ボツリヌス菌の毒素そのものは熱に弱く、食品安全委員会は「80℃で20分又は100℃で1~2分間の加熱で不活化されます」としています。同委員会は、毒素ができていても、食べる前に十分に加熱すれば食中毒を防げるとも説明しています。

ただし家庭では、焼き芋の中心がこの温度と時間に達したかを確かめるのは難しく、同じように常温に置いた焼き芋では、次に説明するセレウス菌の熱に強い毒素ができている可能性もあります。常温に長く置いた焼き芋は、温め直して食べるのではなく、処分してください。

予防のポイントは、焼いたらアルミホイルを外し、常温に長く置かずに、できるだけ早く食べるか、冷蔵庫に入れることです。

セレウス菌:温め直しても消えない嘔吐毒

セレウス菌も、土や空気、川の水など自然界に広く存在し、芽胞を作る菌です。芽胞は、90℃で60分の加熱にも耐える性質があるとされています(食品安全委員会)。

食品安全委員会によると、日本で多いのは嘔吐型の食中毒で、チャーハンやピラフなどの焼飯類、焼きそばやスパゲッティなどの麺類による事例が多くなっています。さつまいもが原因となった事例を示す資料は確認できませんでしたが、「でんぷんの多い、加熱した食品を常温に置いておく」という点は共通しています。

加熱した後に室温で置いておくと、生き残った芽胞が芽を出して増え、食品の中で嘔吐毒(セレウリド)を作ります。この毒素は126℃で90分加熱しても失活しないとされ、温め直しても消えません。

嘔吐型の潜伏期間は0.5〜6時間と短く、吐き気や嘔吐が主な症状です(食品安全委員会)。

予防のポイントは、焼いたらすぐに食べること、すぐに食べない分は小分けにして早く冷やし、冷蔵庫で保存することです。食品安全委員会も、調理後はすぐに食べること、保存する場合は速やかに8℃以下で保存し(業務用の保温庫では55℃以上)、保存期間はできるだけ短くすることを挙げています。

ウエルシュ菌:大きな焼き芋やまとめて焼いたものは冷めにくい

ウエルシュ菌は、人や動物の腸の中、土、下水などに広く存在し、芽胞を作る菌です。酸素の少ない場所で増える性質があります。

食品安全委員会によると、原因食品はカレーやシチュー、煮物、大量に調理した食品などが多く、加熱調理後にそのまま置いておくと増えることが知られています。その過程として、同委員会は次の4点を挙げています。

  1. 加熱によって、ほかの菌の多くは死に、熱に強い芽胞だけが残る
  2. 加熱によって、芽胞が芽を出しやすくなる
  3. 加熱によって、食品の中の酸素が追い出される
  4. ゆっくり冷ますと、55℃くらいから急速に増える

ウエルシュ菌が増える温度は12〜50℃、特に増えやすい温度は43〜45℃とされています(食品安全委員会)。

焼き芋が原因となった事例は確認できませんでしたが、大きな焼き芋や、たくさん焼いてまとめて置いた焼き芋は、中心まで冷めるのに時間がかかります。そのぶん、ウエルシュ菌が増えやすい温度に長くとどまりやすいと考えられます。

潜伏期間は6〜18時間(平均10時間)で、主な症状は腹痛と下痢です。発熱や嘔吐はほとんど見られず、多くは1〜2日で回復するとされていますが、持病のある方、特に子どもや高齢者では、まれに重症化することが知られています(食品安全委員会)。

予防のポイントは、焼いたらできるだけ早く食べること、残す場合は小分けにして早く冷やし、10℃以下で保存することです。

セレウス菌とウエルシュ菌の特徴。どちらも焼いた後の常温放置で増える

3つの菌の比較表

3つの菌の違いを、食品安全委員会のファクトシートをもとに表にまとめました(ボツリヌス菌の「ホイルで包んだまま置いた」は、上で紹介した米国の事例によります)。

項目ボツリヌス菌セレウス菌(嘔吐型)ウエルシュ菌
よく知られた原因酸素の少ない状態で保存された食品(びん詰・缶詰・真空包装など。ホイルで包んだまま置いた焼いた芋の事例も)加熱後に常温で置いた食品(焼飯・麺類に多い)加熱後にゆっくり冷ました食品(カレー・煮物・大量調理に多い)
潜伏期間一般に8〜36時間0.5〜6時間6〜18時間(平均10時間)
主な症状初期に吐き気・嘔吐・下痢が見られることが多い。ものが二重に見える、飲み込みにくい、呼吸が苦しいなど吐き気・嘔吐腹痛・下痢
毒素と熱毒素は熱に弱い(80℃20分又は100℃1〜2分で不活化)嘔吐毒は熱に強い(126℃90分でも失活しない)腸の中で毒素を作る。毒素は熱に弱い(60℃10分で不活化)
家庭での予防焼いたらホイルを外し、常温に置かず冷蔵庫へすぐに食べるか、小分けにして早く冷やす小分けにして早く冷やし、10℃以下で保存

食中毒は何時間後に発症する?

食中毒は、食べてすぐに症状が出るとはかぎりません。東京都多摩府中保健所の広報「食べもの暦 第2号」(令和6年10月発行)でも、次のように注意を呼びかけています。

突然、下痢や腹痛、吐き気があったとき、直前の食事が原因と疑われがちです。しかし、食中毒は短時間で発症する場合もありますが、 数日後に症状があらわれる場合もあります。

  • 黄色ブドウ球菌 1~5時間:吐き気・おう吐が主症状で、下痢を伴うこともあります。弁当や生菓子などの手作業で製造される食品に多いです。
  • ウエルシュ菌 6~18時間:下痢や腹痛の症状を呈します。大量調理、常温放置されたカレーやシチュー、煮物などに多いです。
  • サルモネラ 6~72時間:腹痛や下痢、高熱などの症状を呈します。卵や肉を原材料とした食品や、様々な調理加工品が主な原因になります。
  • ノロウイルス 24~48時間:おう吐や下痢、発熱などの症状を呈します。冬季に多い食中毒です。カキなどの二枚貝だけでなく、ノロウイルスに感染した人を介して汚染された食品が原因になることが多いです。
  • カンピロバクター 2~7日:下痢や吐き気、発熱等の症状を呈します。加熱不十分な鶏肉(鶏レバー、鶏刺しなど)が原因になることが多いです。

東京都多摩府中保健所:食べもの暦 第2号(令和6年10月発行)さつまいも/食中毒は何時間後に発症する?

焼き芋で注意したい3つの菌の潜伏期間は、上の比較表のとおりです。数日前に食べたものが原因のこともあるため、体調に異変があるときは、少し前までの食事も思い出してみてください。

焼いた後の扱い:常温放置を避け、早めに食べるか冷蔵庫へ

ここまで見てきたように、焼き芋の食中毒を防ぐかぎは、焼いた後の扱いにあります。

ここでは、焼く前から食べるまでの流れに沿って、家庭でできることをご説明します。どれも特別な道具はいらない、ちょっとした習慣です。

焼く前・買うとき:皮の土を洗い落とす

さつまいもの皮に付いた土には、ボツリヌス菌やセレウス菌の芽胞が含まれていることがあります。食品安全委員会は、ボツリヌス食中毒の予防策の1つとして、野菜や果物などの原材料を十分に洗うことを挙げています。

焼く前には、流水の下で、野菜用のブラシなどを使って皮の土をよく洗い落としましょう。

なお、保存中のさつまいもは洗わずにおき、焼く直前に洗うのがおすすめです。東京都多摩府中保健所は、掘ったさつまいもは「水洗いをすると傷みやすくなってしまうため、土がついた状態で保管しましょう」としています。

市販の焼き芋を買うときは、消費期限などの表示を確認し、表示された期限と保存方法に従ってください。厚生労働省も、表示のある食品は消費期限などを確認して購入するよう呼びかけています。

焼いた後、常温に置くのは2時間まで

焼いた後に常温で置いておく時間は、2時間までを目安にしてください。

冒頭でご紹介したとおり、米国農務省は、傷みやすい食品は2時間以内に冷蔵庫に入れ、気温が約32℃を超えるときは1時間以内にするよう示しています。調理した料理の残りも、調理してから、または保温器から出してから2時間以内に冷蔵庫に入れるよう示しています。

国内でも、厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」が、調理後の食品は「調理終了後から2時間以内に喫食することが望ましい」としています。給食施設などを対象にした基準ですが、家庭でも参考になる目安です。

注意したいのは、2時間は「ここまでなら安全」という線ではなく、「これ以上は置かない」という上限の目安だということです。夏場や暖房の効いた部屋では、より早く冷蔵庫へ移してください。

温かいまま置いておく場合、厚生労働省は、温かく食べる料理は65℃以上、冷やして食べる料理は10℃以下を目安としています。ただ、家庭で焼き芋を65℃以上に保ち続けるのは難しいため、焼けたら早めに食べるのが現実的です。

アルミホイルは外し、小分けにして早く冷やす

アルミホイルで包んで焼いた場合は、焼き上がったらホイルを外してください。ボツリヌス菌の項目でご説明したとおり、ホイルで包んだまま常温に置くのは避けたい扱い方です。

すぐに食べない分は、早く冷えるようにするのがポイントです。厚生労働省は、残った食品は「早く冷えるように浅い容器に小分けして保存しましょう」としています。大きな焼き芋は食べやすい大きさに切り分けると、中心まで冷えやすくなります。

参考までに、大量調理施設衛生管理マニュアルは、加熱した食品を冷ますときの目安を示しています。食中毒菌が育ちやすい温度帯(約20℃〜50℃)の時間をできるだけ短くするため、「30分以内に中心温度を20℃付近(又は60分以内に中心温度を10℃付近)まで下げるよう工夫すること」としています。家庭で同じように温度を測る必要はありませんが、冷ますために長く常温に置かないことが大切だと分かります。

保存するときは、清潔な容器に入れてふたをするか、ラップで包み、ほかの食品からの汚染を防いでください。

冷蔵・冷凍:日数の目安は保存方法ごとの記事で

冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫はマイナス15℃以下に保つのが目安です(厚生労働省)。

ただし厚生労働省は、細菌の多くは10℃では増え方がゆっくりになり、マイナス15℃では増えなくなるものの、「細菌が死ぬわけではありません」とし、早めに使いきるよう呼びかけています。冷蔵庫に入れた焼き芋も、早めに食べきってください。

なお、セレウス菌について、食品安全委員会は8℃以下での保存を挙げています。冷蔵庫の温度は、できるだけ低めに保つようにしましょう。

冷蔵・冷凍それぞれで何日くらいもつかの目安は、焼き芋の日持ちを保存方法ごとに解説した記事でまとめています。冷凍の手順は、焼き芋の冷凍保存の方法を解説した記事をご覧ください。

温め直しは「安全にする方法」ではない

冷蔵庫で保存した焼き芋を温め直して食べるときは、中心までしっかり温めてください。厚生労働省は、残った食品を温め直すときの目安を75℃以上としています。

ただし、温め直しは、正しく冷蔵した焼き芋を衛生的に食べるための手順です。常温に長く置いた焼き芋を安全にする方法ではありません。セレウス菌の嘔吐毒のように、一度できると温め直しても消えない毒素があるからです。

厚生労働省は「時間が経ち過ぎたら、思い切って捨てましょう」「ちょっとでも怪しいと思ったら、食べずに捨てましょう」と呼びかけています。うっかり一晩常温に置いてしまった焼き芋は、もったいなく感じても、温め直さずに処分してください。

苦い焼き芋・さつまいもは食べない:傷や病気で作られる「イポメアマロン」

ここまでは、菌による食中毒についてご説明しました。これとは別に、さつまいも自身が作る苦み成分にも注意が必要です。

焼き芋やさつまいもを食べて、強い苦みやいつもと違う味を感じたら、飲み込まずに食べるのをやめ、残りも食べないでください。

さつまいもは、病気や害虫、傷などの刺激を受けると、身を守るための物質を作ります。私たちが食べる部分は、塊根(かいこん)と呼ばれる太った根です。農畜産業振興機構の報告書(令和3年度畜産関係学術研究委託調査報告書)は、この塊根が「黒斑病などの病原菌の感染やアリモドキゾウムシなど害虫の食害、傷害により、イポメアマロンなどの抗菌性フラノセスキテルペン類を作り出す」と説明しています。

同じ報告書によると、イポメアマロンなどは、家畜が餌として食べると中毒を起こすことがあります。2016年には鹿児島県で、黒毛和牛が傷ついたさつまいもによって中毒死した事例が報告されています(中村ら、2020年)。

同報告書は、これらの成分にはにおいと苦みがあるため、人は口にするとすぐにおかしいと気付いて食べるのをやめる、とも述べています。ただし、これを「苦くなければ食べてよい」と読むのは誤りです。苦みを感じないことは、傷みや病気がないことの証明にはなりません。

どれくらい作られるかは、傷の有無だけでなく、その後どんな温度・湿度に置かれたかによっても変わります。島佳久ほか(熱帯農業 第40巻第4号・1996年)は、除菌した塊根に擦り傷をつけ、温度と湿度を組み合わせて保存する実験を行っています。その結果、相対湿度85〜95%の高湿条件では、13℃・25℃のいずれでもイポメアマロンは検出されませんでした。相対湿度60〜70%の低湿条件では傷の側で確認され、25℃で生成が著しく増えたと報告されています。傷をつけていない塊根では、どちらの条件でも生成は認められませんでした。

なお、この研究は機械的な傷をつけた実験で、黒斑病に感染させた実験ではありません。買ってきたさつまいもがどんな環境を通ってきたかを、家庭で知ることもできません。

また、病斑の外側にどこまで成分が及ぶのかを示した資料は、当サイトの調査では確認できませんでした。そのため、「傷んだ部分や黒くなった部分を切り取れば食べられる」とはいえません。

加熱についても同じで、家庭で安全かどうかを確かめる方法はありません。切り取っても、加熱しても、安全になるとは保証できず、安全対策として当てにはできないということです。病気や傷みが疑われるさつまいもは、食べないでください。

黒い斑点や病斑について詳しくはさつまいもの黒い斑点を解説した記事、芽が出たさつまいもについてはさつまいもの芽を解説した記事で解説しています。

よくある質問

焼き芋の食中毒について、よくある疑問にお答えします。本文の内容を短くまとめていますので、詳しくは各章もあわせてご覧ください。

Q1. 焼き芋を常温で一晩置いてしまいました。温め直せば食べられますか?

食べずに処分することをおすすめします。一晩置いた場合、常温に置く目安の2時間を大きく超えています。また、セレウス菌の嘔吐毒のように、一度できると温め直しても消えない毒素があります。

Q2. 焼き芋が酸っぱいのは、腐っているからですか?

腐敗以外の理由で酸っぱくなると説明されることもありますが、当サイトでは裏付けとなる一次情報を確認できていません。家庭で区別する方法もないため、酸っぱいにおいや味がする焼き芋は食べないでください。

Q3. 傷んだ焼き芋を食べてしまいました。どうすればいいですか?

当サイトでは、個別の症状についての判断はできません。体調の変化に気をつけ、腹痛や下痢、吐き気などの症状が出たときは、かかりつけ医などの医療機関にご相談ください。厚生労働省も、お腹が痛くなったり下痢をしたりしたときは、かかりつけの医師に相談するよう呼びかけています。

ものが二重に見える、飲み込みにくい、ろれつが回らない、息が苦しいといった症状は、ボツリヌス食中毒で見られる症状として挙げられています(食品安全委員会)。こうした症状があるときは、急いで医療機関を受診してください。症状が出るまでの時間は菌によって違い、数日たってから出ることもあります。

Q4. カビの部分を取り除けば食べられますか?

食べないでください。農林水産省は、かびの部分を取り除いても見えないかびが残っている可能性があるとして、食べずに捨てるよう呼びかけています。

Q5. スーパーで買った焼き芋は、どのくらいで食べればいいですか?

消費期限などの表示がある場合は、表示された期限と保存方法に従ってください。

お店の保温器などで温かいまま売られていた焼き芋は、保温器から出して(買って)から2時間まで(気温が32℃を超えるときは1時間まで)を目安にし、すぐに食べない分は冷蔵庫へ入れてください。米国農務省も、保温器から出してから2時間以内に冷蔵庫へ入れるよう示しています。

常温で並べられていた焼き芋は、店頭に並ぶ前から時間がたっていることがあるため、買ったときから2時間を数え始めることはできません。表示やお店の案内で、いつ焼いたものかを確認してください。確認できない場合は、冒頭の表のとおり、食べないことをおすすめします。

冷蔵・冷凍の日数の目安は、焼き芋の日持ちを保存方法ごとに解説した記事でまとめています。

まとめ

焼き芋の食中毒を防ぐために、押さえておきたいポイントを振り返ります。

  • 焼き芋の食中毒で気をつけたいのは、焼いた後の扱いです。常温に置くのは2時間まで(気温32℃超は1時間まで)を目安にし、アルミホイルで包んだまま置かないでください。
  • カビ・異臭・ぬめり・苦みがあれば食べないでください。ただし、これらがなくても安全とはかぎらないため、判断は焼いてからの時間と置き方(保存の履歴)で行います。
  • 温め直しは、安全にする方法ではありません。セレウス菌の嘔吐毒のように、温め直しても消えない毒素があります。
  • 苦いさつまいもや、病気・傷みが疑われるものは食べないでください。黒い部分の原因は見た目で決めず、迷ったら食べないのが安全側の選択です。

ここでご紹介した菌は、特別な菌ではなく、土や自然界に広く存在しているものです。だからこそ、焼いた後の扱いに少し気をつけることが大切です。

焼きたてはおいしいうちに味わい、残った分は小分けにして早めに冷蔵庫へ。そんな習慣で、焼き芋を楽しんでいただければと思います。

焼き芋を半分に割って持つ女性

さつまいもや焼き芋の「見た目の異変」については、次の記事もあわせてご覧ください。

参考資料

本記事の作成にあたって参照した資料です。数値や引用は、各資料の記載にもとづいています(2026年9月確認)。