寒くなってくると、湯気の立つ焼き芋が恋しくなります。お店で買うのも楽しみですが、家のオーブンやトースターでも焼き芋は作れます。ただ、「家で焼くと、お店の石焼き芋ほど甘くならない」と感じたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

焼き芋の甘さを左右するのは、器具に設定する温度そのものよりも、芋の中の温度がどのように上がっていくかです。本記事では、家でできる焼き芋の作り方を、オーブン・トースター・電子レンジ・炊飯器などの器具別に、甘くなる温度と時間の考え方とあわせて、わかりやすくご説明したいと思います。電子レンジの発火やアルミホイルの扱いなど、安全に作るための注意点もまとめました。

焼き芋を甘く作るコツは「芋の中の温度」と「時間」

一般的な品種では、芋の中の温度をゆっくり上げて、70〜75℃前後の温度帯をできるだけ長く通すことが、焼き芋を甘く作るコツです。麦芽糖が作られやすい温度帯は、品種や条件によって違います。器具の設定温度と芋の中の温度は別ものです。ここではまず結論と、器具ごとの目安をまとめてご紹介します。

甘さが増すのは、芋の中が70〜75℃前後のあいだ

焼き芋の甘さのもとになるのは、加熱中に作られる麦芽糖(マルトース)という糖です。さつまいものでんぷんが加熱で糊化(こか:でんぷんが水を含んで、のり状に変化すること)し、そこにβ-アミラーゼという酵素が働くことで、麦芽糖ができます。

いも類振興会の資料は、通常の品種のでんぷんが糊化する温度を約70℃としています。そのうえで、麦芽糖が盛んに作られる温度域は「70~75℃の狭い範囲に限られる」と説明しています。β-アミラーゼは熱に弱く、75〜80℃に達するとほとんど働かなくなるためです(中村善行「サツマイモの甘さや食感とでん粉の糖化」いも類振興情報136号、14〜18頁、2018年)。

日本いも類研究会も、β-アミラーゼが糊化したでんぷんに働く温度を概ね70℃前後とし、この温度帯をいかに長く保つかが、甘い焼き芋づくりのポイントだとしています。芋の中がこの温度帯を急いで通り過ぎてしまうと、麦芽糖が作られる時間が短くなるということです。

器具の設定温度と、芋の中の温度は別もの

オーブンを160℃に設定しても、芋の中がすぐに160℃になるわけではありません。熱は皮の側から少しずつ伝わるため、中心の温度はゆっくり上がっていきます。

高系14号を約60gに切り分け、140±5℃の電気定温乾燥器で焼いた研究では、加熱開始から60分後の中心部の温度は78℃だったと報告されています(桐渕壽子・久保田紀久枝、家政学雑誌27巻6号、1976年)。中心温度の上がり方は、芋の大きさや加熱の条件によって変わります。川越いも友の会編『焼き芋小百科』(2005年)も、焼き芋は30〜60分ほどかけてじっくり焼くものとしています。そのうえで、甘みの糖分が増える65〜75℃の温度域を長くすることが重要だとしています。

つまり、設定温度は「芋のまわりの温度」、甘さを決めるのは「芋の中の温度」です。同じ設定温度でも、芋の太さや本数によって、中の温度の上がり方は変わります。

器具別の目安早見表

家にある器具ごとに、メーカーなどが示している目安の例をまとめました。数値は、それぞれの資料が示した条件での例です。機種や芋の太さによって必要な時間は変わりますので、焼き上がりは竹串で確かめてください。

器具 メーカー等が示す目安の例 仕上がりの傾向 気をつけたいこと
オーブン 150℃で80〜90分(予熱なし・1本250g/東芝ライフスタイルの「ねっとりの場合」)、160℃で約1時間20分(予熱あり/パナソニック) 低めの温度で長く焼く方法が「ねっとり」向けとして紹介されている 天板にホイルやシートを敷く。紙製のシートは、表示された耐熱温度と使用時間を守る
オーブントースター 200℃で20分焼き、裏返して20分(ハイアール)、230℃で30〜40分(直径5.5cm以内/バルミューダ) 小ぶりの芋を選ぶか、切って焼くよう案内するメーカーがある ホイルをヒーターに触れさせない
電子レンジ 600Wで1分30秒加熱したあと、200W(または解凍)で8〜10分(約300g/ニチレイフーズ) 手早くできるが、甘さは控えめになりやすい 加熱しすぎると発火のおそれ。ホイルは使わない
炊飯器 「蒸し」メニューで、1cmの輪切り(1本200g)を約40分(アイリスオーヤマの取扱説明書・機種の例) 焼き芋ではなく、蒸し芋の仕上がり 取扱説明書にある使い方に限る
フライパン アルミホイルで包んだ芋を入れ、底から約1cmの水を注いで中火にかけ、沸騰したらふたをして弱火で約50分(象印マホービン) 水を使った蒸し焼きになる 水がなくなっていないか途中で確かめる

甘さを重視するなら、オーブンのように、芋の中の温度が時間をかけて上がる器具が向いていると考えられます。電子レンジは手軽ですが、焼き芋らしい甘さは出にくいと考えておくとよいでしょう。炊飯器は、焼き芋というより蒸し芋に近い仕上がりになります。器具ごとの詳しい手順は、次の2つの章でご説明します。

基本の作り方|下準備とオーブンでの焼き方

焼き芋の作り方の基本として、まずはオーブンでの焼き方をご紹介します。オーブンは温度と時間を設定しやすく、芋の中の温度をゆっくり上げられるため、甘い焼き芋を作りたいときに向いています。ここでは、芋の選び方と洗い方、オーブンで焼く手順、焼き上がりの見分け方を順にご説明します。

芋を選んで、皮の土を洗い落とす

メーカーのレシピも芋の太さや重さを指定しているように、太さによって焼き上がりまでの時間は変わります。何本か一緒に焼くときは、太さをそろえておくと、焼き上がりを合わせやすくなります。芋の重さの目安は、さつまいものサイズと重さを解説した記事をご覧ください。

極端に太い芋や長い芋は、時間を多めに見込むか、切ってから焼く方法もあります。大きな芋の焼き方は、大きいさつまいもを焼き芋にするコツを解説した記事で詳しくご説明しています。

ねっとり系・ホクホク系など、品種によって焼き上がりの食感も変わります。焼き芋に向く品種は、焼き芋に向く品種を解説した記事でご紹介しています。

焼く前の芋は、冷蔵庫に入れないでください。さつまいもは低温に弱く、冷やしすぎると低温障害(冷やしすぎたときに起こる傷み)が起こります。切っていない生のさつまいもは、13〜15℃を目標に、少なくとも10℃を下回らない場所に置くのが目安です(日本いも類研究会、JAなめがた甘藷部会連絡会)。冷蔵庫での保存については、さつまいもを冷蔵庫で保存してよいかを解説した記事で詳しくご説明しています。

焼く直前に、皮に付いた土を流水で洗い落とします。野菜用のブラシやたわしを使うと、くぼみの土も落としやすくなります。土には食中毒の原因になる菌が含まれていることがあり、食品安全委員会も、野菜や果物などの原材料を十分に洗うことを、ボツリヌス食中毒の対策の1つに挙げています。洗剤は使わず、水で洗ってください。

オーブンで焼く手順

オーブンでの焼き方は、次のとおりです。ここでは、低めの温度でじっくり焼く方法を基本としてご紹介します。

  1. 天板にアルミホイルかオーブンシートを敷きます。焼いている間ににじみ出た蜜などで、天板が汚れたり焦げついたりするのを防ぐためです。ただし、紙製のオーブンシート(クッキングシート)には、耐熱温度と使用時間の制限があります。たとえば旭化成ホームプロダクツは、「クックパー クッキングシート」の使用の目安を250℃で20分〜300℃で5分としています。シートを使う場合は、オーブンの取扱説明書とレシピ、シートの表示に従ってください。
  2. 洗った芋を並べます。芋をアルミホイルで包むレシピ(パナソニック)と、包まずに角皿に並べるレシピ(東芝ライフスタイル、象印マホービン)があり、どちらでも焼けます。焼く前に、皮にフォークや竹串で穴をあけるよう案内しているレシピもあります(東芝ライフスタイル、象印マホービン)。
  3. 150〜160℃で80〜90分ほどを目安に焼きます。東芝ライフスタイルのレシピは「ねっとりの場合」として、太さ3〜5cm・1本250gの芋4本を角皿に並べて下段に入れ、予熱なし・150℃で80〜90分としています。パナソニックのレシピは、160℃に予熱して約1時間20分です。
  4. 竹串を刺して、中心まですっと通れば焼き上がりです。硬さが残る場合は、少しずつ時間を足して様子を見てください。
  5. 焼き上がった芋や天板はとても熱くなっています。取り出すときはミトンなどを使い、やけどに気をつけてください。

高めの温度で短く焼く方法もあります。パナソニックは、自社のオーブンレンジの庫内容量ごとに、予熱なしで200〜300℃・40〜70分ほどの目安を示しています(たとえば26Lは250℃で約50〜60分。1本約250g・太さ3〜4cmの芋4本の例)。東芝ライフスタイルのレシピも、予熱なし・300℃で43〜48分の焼き方に加えて、「ねっとりの場合」として150℃で80〜90分の焼き方を載せています。

250〜300℃のような高い温度で長く焼く場合、紙製のシートは、その温度と時間に対応すると表示された製品以外は使わないでください。パナソニックの容量別の目安は、角皿にアルミホイルを敷くと汚れを防げるとしています。

甘さやねっとり感を重視するなら、低めの温度で時間をかけるほうが、芋の中が甘くなる温度帯を通る時間が長くなると考えられます。

焼き上がりの見分け方

焼き上がりは、竹串が芋の中心まで抵抗なく通るかどうかで確かめるのが基本です。芋の太いところに刺して、硬い芯が残っていないかを見てください。

重さの変化も目安になります。『焼き芋小百科』によると、焼き芋は焼くことで水分が抜け、重さが約15〜30%減るとされています(産地や品種、貯蔵期間によって異なります)。焼く前に重さを量っておくと、焼き上がりの目安のひとつになります。

料理用の温度計がある場合は、中心の温度も参考になります。同書は、芋の中の温度が90℃を超えないと生煮えになるとしています。70〜75℃前後の温度帯を長く通すことは甘さのためのコツで、最後は中心までしっかり火を通すことが前提です。

焼いている間に、皮の切れ目などから蜜がにじむこともあります。ただ、蜜がにじむかどうかで焼き上がりや甘さを判断できることを示す資料は確認できていないため、竹串での確認を基本にしてください。

器具別の作り方|トースター・電子レンジ・炊飯器・フライパン・石焼き芋鍋

オーブンがなくても、焼き芋は作れます。ただし器具によって、芋の中の温度の上がり方や、気をつけたい点が違います。ここでは、器具ごとの作り方の要点と、甘さの面での向き不向きをご説明します。

オーブントースター

オーブントースターは、手軽に焼き芋を作れる器具です。タイガー魔法瓶は、芋をアルミホイルで包み、火力「強」で20〜30分焼く方法を案内しています。ハイアールは、アルミホイルを敷いた上に芋を置き、200℃で20分焼いてから裏返して、さらに20分焼く方法を紹介しています。

トースターで焼く場合は、小ぶりの芋を選ぶか、切って焼くよう案内しているメーカーがあります。バルミューダは、芋が上部のヒーター管に触れないよう、直径5.5cm以内の芋を目安にしています。タイガー魔法瓶も、大きい芋は2つに切るなどの工夫を案内しています。

アルミホイルを使うときは、ホイルがヒーターに触れないように注意してください(パナソニックの取扱説明書)。パンくずトレイ(くず受けトレイ)にホイルを敷かないよう求めている機種や、クッキングシートなどの紙類を使わないよう求めている機種もあります(日立、パナソニックの取扱説明書)。調理中はそばを離れないよう呼びかけているメーカーもあります(バルミューダ)。お使いのトースターの取扱説明書を確かめてから焼いてください。

電子レンジ|甘くなりにくい理由と、出力を下げて時間をかけるコツ

電子レンジは短時間で加熱できて便利ですが、焼き芋らしい甘さは出にくい器具です。芋の中の温度が一気に上がり、β-アミラーゼが働ける時間が短くなるためです。

前の章で紹介した桐渕・久保田(1976年)の研究では、約60gに切った芋を、焼いた場合と、1個ずつラップで包んで電子レンジで加熱した場合で比べています。焼いたほうが約2倍の糖ができ、電子レンジでは90秒でβ-アミラーゼが完全に働きを失ったと報告されています。これはその実験の条件での結果で、丸ごとの芋や、出力の違う電子レンジにそのまま当てはまる時間ではありません。『焼き芋小百科』も、電子レンジは短時間加熱のため甘味が少ないとしています。

少しでも甘く仕上げたいときは、出力を下げて時間をかける方法があります。ニチレイフーズのレシピは、約300gの芋を洗い、濡れたままキッチンペーパーとラップで包みます。そして、600Wで1分30秒加熱したあと、200W(または解凍モード)で8〜10分加熱する方法です。

電子レンジでも、芋の大きさを変えて加熱したところ、加熱に長い時間がかかったものほど甘かったという古い研究があります。酵素が働ける時間の長さによるものと考察されています(松元文子ほか、家政学雑誌16巻5号、1965年)。

また、でんぷんの糊化温度が低いクイックスイートなどの品種は、麦芽糖が作られる温度の幅が広がると説明されています。そのため、電子レンジで手早く加熱しても、一定の甘さが得られるとされています(いも類振興情報136号)。この品種については、クイックスイートの特徴を解説した記事でご紹介しています。

電子レンジでは、アルミホイルは使えません。また、加熱しすぎると芋が発火することがあります。加熱時間は短めに設定し、その場を離れずに様子を見てください(詳しくは後の「安全に作って保存するために」の章でご説明します)。

炊飯器|焼き芋というより蒸し芋に近い仕上がり

炊飯器では、芋を蒸気で加熱することになります。オーブンで皮の外側から焼く方法とは違い、焼き芋のような香ばしさは付かず、蒸し芋(ふかし芋)に近い仕上がりになります。ただし、甘さやねっとり感は品種や加熱の条件にも左右され、蒸し芋でも得られます。いも類振興情報136号は、加熱中に麦芽糖が多くできてでん粉が大きく減ると、ネットリした食感になりやすいと説明しています。焼き芋とふかし芋の違いは、焼き芋とふかし芋の違いを解説した記事で詳しくご説明しています。

炊飯器のメーカー各社は、取扱説明書に記載した用途以外に使わないよう求めています(パナソニック、タイガー魔法瓶ほか)。タイガー魔法瓶の取扱説明書は、記載以外の使い方をすると、蒸気や内容物が噴き出して、やけどやけがをするおそれがあるとしています。

さつまいもを炊飯器で加熱したい場合は、「蒸し」や「調理」のメニューがある機種で、取扱説明書の手順に従ってください。たとえばアイリスオーヤマの炊飯器(KRC-IB30)の取扱説明書は、「蒸し」メニューで、1cmの輪切りにしたさつまいも1本(200g)を約40分としています。

炊飯器の玄米モードで焼き芋を作る方法については、象印マホービンが、底の温度センサーが正確に検知できず故障につながる可能性を挙げたと報じられています。タイガー魔法瓶は、内なべが焦げることや、圧力式では中の材料が吹き出す危険があることを挙げたとされています(BuzzFeed Japan、2023年11月20日)。保温機能で長時間置く方法も見かけますが、当サイトでは安全面の裏づけを確認できていないため、おすすめしていません。

フライパン・魚焼きグリル

フライパンでも、ふたをして蒸し焼きにすれば焼き芋が作れます。象印マホービンは、アルミホイルで包んだ芋をフライパンに入れ、底から約1cmの水を注いで中火にかけ、沸騰したらふたをして弱火で約50分蒸し焼きにする方法を紹介しています。

途中で水がなくなると、空焚きの状態になります。フッ素樹脂加工のフライパンについて、メーカーは空焚きをしないよう注意しています(ビタクラフト、和平フレイズ)。加熱中は、ときどき水が残っているかを確かめてください。

魚焼きグリルは、機種によって火力や使い方が大きく違います。グリルで焼く場合は、取扱説明書の案内に従ってください。受け皿や庫内に食品かすや油汚れが残っていると、発火の原因になることがあるため、使用後はこまめに掃除しましょう(製品評価技術基盤機構:NITE)。

石焼き芋鍋・壺焼き

石焼き芋や壺焼きは、芋の温度の上がり方がゆるやかな焼き方です。いも類振興情報136号は、石焼きや壺焼きは蒸し加熱に比べて、塊根(かいこん:根が太ってできた、さつまいもの食べる部分)の温度上昇が緩やかだと説明しています。そのため、麦芽糖が作られる温度域にさらされる時間が長くなり、麦芽糖が多くなるとしています。壺焼きについては、壺焼き芋と石焼き芋の違いを解説した記事で詳しくご説明しています。

家庭用の石焼き芋鍋を使う場合は、使う前にコンロの取扱説明書を確かめてください。ガスコンロの中には、取扱説明書で「石焼いもつぼなどの空焼きをする調理具」を使わないよう定めている機種があります(リンナイ、パロマ)。異常過熱によって機器が損傷するおそれがあるためです。鍋の説明書に書かれた、使えるコンロの種類もあわせて確認しましょう。

焼き芋が甘くなる仕組み|「60℃」「70℃」「80℃」と温度の数字が違う理由

焼き芋の作り方を調べると、「60〜70℃」「70℃」「80℃」など、甘くなる温度として紹介される数字が資料によってばらばらなことに気づきます。どれかひとつが正しいというより、それぞれ別の温度を指している場合があります。ここでは、甘くなる仕組みと、数字が違う理由を整理します。

でんぷんの糊化とβ-アミラーゼがそろう温度で麦芽糖ができる

生のさつまいものでんぷんは、そのままではβ-アミラーゼが分解しにくい状態です。加熱によってでんぷんが糊化すると、β-アミラーゼが働けるようになり、でんぷんを分解して麦芽糖を作ります。

ところがβ-アミラーゼは熱に弱く、温度が上がりすぎると働かなくなります。日本いも類研究会は、麦芽糖が作られるのは「でん粉の糊化温度以上で、かつβ-アミラーゼが完全に熱失活する温度以下の温度」だと説明しています。

つまり甘くなるのは、でんぷんが糊化していて、なおかつ酵素がまだ働いている温度帯です。この温度帯が狭いことが、焼き方によって甘さが大きく変わる理由です。なお、麦芽糖の甘さは砂糖(ショ糖)の約3分の1とされています(いも類振興情報136号)。

数字が資料ごとに違うのは「何の温度か」が違うから

資料によって温度の数字が違うのは、測っているものや測り方が違うためです。主な数字を、何の温度かで分けると次のようになります。

何の温度か 数字 出典
芋から取り出した酵素が、試験管の中でよく働いた温度 50〜60℃ Honda ほか(2026年)
でんぷんが糊化し始める温度 概ね65〜75℃(通常の品種で約70℃) 日本いも類研究会、中村(2018年)
芋の中で麦芽糖が盛んに作られる温度域 70〜75℃(65〜75℃とする資料もある) 中村(2018年)、『焼き芋小百科』
β-アミラーゼがほとんど働かなくなる温度 70℃前後(品種で差がある)、75〜80℃ 日本いも類研究会、中村(2018年)

表の1行目は、芋から取り出した酵素の液を、温度を変えて10分間反応させた測定の結果です(Honda ほか、Journal of Applied Glycoscience、2026年)。酵素だけで見ればもっと低い温度でもよく働きますが、でんぷんが糊化していなければ、芋の中では麦芽糖はあまり作られません。「60〜70℃でよく働く」といった説明は、この2つの話が混ざっていることがあります。

酵素がほとんど働かなくなる温度にも、70℃前後と75〜80℃という違いがあります。日本いも類研究会は、失活温度には品種間で差があるとしています。測定の条件によっても数字は変わりうるため、1つの値に決めつけないほうがよいでしょう。

家で焼き芋を作るときに意識したいのは、表の3行目です。芋の中が70〜75℃前後を通る時間をできるだけ長くとることが、甘さにつながると考えられます。

品種と貯蔵でも、甘くなりやすさは変わる

同じように焼いても、品種によって甘さは変わります。でんぷんが糊化し始める温度も、品種によって違います。ある研究で、取り出したでんぷんの糊化の始まりの温度を測ったところ、安納芋で61.7℃、高系14号で66.8℃、べにはるかで67.3℃、シルクスイートで68.2℃でした(Honda ほか、2026年。2022年に石川県で栽培し、収穫後2週間以内に分析した試料)。

β-アミラーゼの働きの強さにも品種差があります。いも類振興情報136号では、べにはるかはβ-アミラーゼの活性が高い品種群に分類されています。また、糊化温度が通常の品種より低いクイックスイートなどは、麦芽糖が作られる温度の幅が広くなると説明されています。

収穫してからの貯蔵の期間も、甘さに関わります。同じ資料は、貯蔵中に増える糖(ショ糖など)と加熱でできる麦芽糖は、甘さへの寄与が同程度だとしています。そのうえで、収穫後1〜3か月の時期は、麦芽糖が甘さの主体と考えられるとしています。

6品種を調べた研究でも、貯蔵に伴う焼きいもの甘みの増大には、貯蔵中に増えるショ糖などの糖が大きく寄与していたと報告されています(安藤利夫ほか、園芸学研究17巻4号、2018年)。焼き方だけでなく、芋そのものの状態も甘さに関わるということです。貯蔵と加熱で甘くなる流れは、さつまいもの旬と、貯蔵・加熱で甘くなる流れを解説した記事で詳しくご説明しています。

うまく焼けないときの原因と対処|甘くない・中が硬い・焦げる

家で焼き芋を作ると、「甘くない」「中が硬い」「焦げてしまった」といった失敗が起こることがあります。ここでは、よくある困りごとごとに、考えられる原因と対処をまとめました。

甘くない

甘さが物足りないときは、加熱が速すぎた可能性があります。高い温度で短時間焼いた場合や、電子レンジを高い出力で使った場合は、芋の中が甘くなる温度帯を急いで通り過ぎてしまいます。次は、オーブンの温度を下げて時間を長くしたり、電子レンジなら出力を下げたりしてみてください。

品種や、収穫してからの日数によっても甘さは変わります。貯蔵中に増える糖も焼き芋の甘さに寄与するため(安藤ほか、2018年)、収穫して間もない時期の芋は、貯蔵された芋に比べて甘さが控えめに感じられることがあります。

中が硬い・芯が残る

竹串を刺して硬さが残っている場合は、加熱が足りていない可能性があります。太い芋ほど、中心まで火が通るのに時間がかかります。時間を足して、中心までしっかり火を通してから食べてください。生焼けのまま食べるのは避けましょう。

十分に加熱しても硬い部分が残る原因のひとつとして、低温障害が知られています。買ってきた芋を冷蔵庫で保存していた場合などに起こることがあります。焼く前の芋の置き場所にも気を配ってください。

皮や蜜が焦げる・煙が出る

焼いている間ににじみ出た蜜は、天板や受け皿に落ちると焦げつきます。天板にアルミホイルやオーブンシートを敷いておくと、後片付けも楽になります。紙製のシートは、シートに表示された耐熱温度と使用時間の範囲で使ってください。

庫内や受け皿に残った食品かすや汚れは、次に使うときに発煙・発火の原因になることがあります(NITE)。焼き芋を焼いた後は、庫内や受け皿をこまめに掃除しましょう。焼いている途中で煙が出たときの対応は、次の章でご説明します。

安全に作って保存するために|発火・アルミホイル・焼いた後の扱い

焼き芋は家庭で手軽に作れますが、器具の使い方によっては発火につながることがあります。また、焼いた後の扱いを誤ると、食中毒の原因になることもあります。ここでは、加熱中と焼いた後に気をつけたい点をまとめます。

電子レンジは、加熱しすぎると発火することがある

電子レンジでさつまいもを加熱しすぎると、発煙や発火が起こることがあります。国民生活センターのテストでは、約100gのさつまいもをラップなしで500Wに設定して加熱し続けたところ、約8分で発煙し、約11分で発火しました。庫内の圧力が上がって、扉が開いたことも報告されています(国民生活センター、2026年3月)。

東京消防庁の実験では、700Wで加熱した焼き芋(120g)が6分26秒で、生のさつまいも(170g)が11分30秒で出火しています。焼き芋の温め直しでも、加熱しすぎれば火が出ることがあるということです。

電子レンジを使うときは、レシピや取扱説明書の加熱時間を目安に、短めに設定して様子を見ながら加熱してください。煙や火が出たときは、扉を開けないでください。国民生活センターは、動作を停止させて電源プラグを抜き、扉を開けずに煙や火が収まるのを待つよう呼びかけています。東京消防庁は、扉を開けずに電源を遮断して、119番通報するよう呼びかけています。慌てて扉を開けて取り出そうとしたことで、服に火がついた事例もあります(東京消防庁)。

アルミホイル・紙を使うときの注意

アルミホイルは、器具によって使い方が違います。電子レンジのレンジ加熱では、アルミホイルなどの金属は原則として使えず、火花や発火の原因になるとされています(国民生活センター、三菱電機)。

オーブントースターでは、ホイルがヒーターに触れないようにし、パンくずトレイ(くず受けトレイ)にホイルを敷かないよう求めている機種があります(パナソニック、日立の取扱説明書)。

焼き芋の作り方として、濡らした新聞紙で芋を包んでから焼く方法も紹介されています。当サイトでは、この方法の安全性や効果を裏づける公的な資料・メーカーの資料を確認できませんでした。オーブントースターの中には、クッキングシートなどの紙類を使わないよう求めている機種もあるため、当サイトではこの方法を紹介していません。

焼いた後はホイルを外し、2時間以内に食べるか冷蔵庫へ

焼き芋は、焼いた後の扱いがとても大切です。アルミホイルで包んで焼いた場合は、焼き上がったらホイルを外してください。土の中などにいるボツリヌス菌は、熱に強い芽胞(がほう:菌が厳しい環境を生き延びるための、殻に包まれたような形)の状態で加熱を生き残ることがあり、酸素の少ない状態で増えて毒素を作ります(食品安全委員会)。

焼いた後に常温で置くのは、2時間までを目安にしてください。気温が32℃を超えるときは1時間までです(米国農務省食品安全検査局)。2時間は「ここまでなら安全」という線ではなく、「これ以上は置かない」という上限の目安です。すぐに食べない分は、小分けにして早く冷やし、冷蔵庫へ入れましょう。米国疾病予防管理センター(CDC)も、アルミホイルで包んで焼いたじゃがいもについて、60℃(140°F)以上に保つか、ホイルをゆるめて冷蔵庫に入れるよう呼びかけています(じゃがいもについての注意です)。

冷蔵した焼き芋を温め直して食べることはできますが、温め直しは、常温に長く置いた焼き芋を安全にする方法ではありません。セレウス菌が作る嘔吐毒(おうとどく)のように、一度できると温め直しても消えない毒素があるためです(食品安全委員会)。

また、米国農務省は、病気の原因になる細菌は、見ることも、においを嗅ぐことも、味わうこともできないと説明しています。焼いてからの時間と置き方で判断し、常温に長く置いた焼き芋は食べずに処分してください。菌ごとの特徴や注意点は、焼き芋の食中毒と保存の注意点を解説した記事で詳しくご説明しています。

冷蔵・冷凍でどのくらい日持ちするかの目安は、焼き芋の日持ちを保存方法ごとに解説した記事でまとめています。

よくある質問

最後に、家で焼き芋を作るときによくある疑問にお答えします。器具ごとの詳しい手順は、ここまでの各章もあわせてご覧ください。

Q1. アルミホイルは巻いたほうがいいですか?

メーカーのレシピでも、ホイルで包むものと包まないものがあり、どちらでも焼き芋は作れます。オーブントースターで使う場合は、ホイルがヒーターに触れないようにしてください。電子レンジのレンジ加熱では、原則として使えません。ホイルで包んで焼いた場合は、焼き上がったら外しましょう。

Q2. 何度で何分焼けばいいですか?

芋の太さや重さ、器具によって変わります。オーブンなら、150〜160℃で80〜90分ほどがひとつの目安です(東芝ライフスタイルの1本250gの例など)。太い芋ほど時間がかかるため、竹串で中心まで火が通ったかを確かめてください。器具別の目安は、記事のはじめの早見表をご覧ください。

Q3. オーブンの予熱は必要ですか?

レシピによって違います。パナソニックの160℃のレシピは予熱ありですが、東芝ライフスタイルの150℃のレシピや、象印マホービンの250℃のレシピは予熱なしです。お使いのオーブンの説明書やレシピに合わせてください。

Q4. 焼き芋とふかし芋(蒸し芋)では、甘さが違いますか?

一般に、焼き芋のほうが甘くなりやすいとされています。いも類振興情報136号は、石焼きや壺焼きは蒸し加熱に比べて温度の上がり方が緩やかなため、麦芽糖が多くなると説明しています。

Q5. 焼いた焼き芋は冷凍できますか?

冷凍できます。焼き上がったら常温に長く置かず、粗熱が取れたら早めに冷凍しましょう。冷凍の手順は、焼き芋の冷凍保存の方法を解説した記事をご覧ください。

Q6. 塩水につけたり、濡らした新聞紙で包んだりすると甘くなりますか?

当サイトでは、これらの方法で甘くなることを示す一次情報を確認できていません。また、濡らした新聞紙で包む方法は、紙類を庫内に入れないよう求めている器具もあるため、おすすめしていません。

まとめ

家でできる焼き芋の作り方のポイントは、器具の設定温度よりも、芋の中の温度の上げ方にあります。最後に、この記事の要点を振り返ります。

  • 焼き芋が甘くなるのは、でんぷんが糊化して、β-アミラーゼがまだ働いている温度帯です。一般的な品種では、芋の中で麦芽糖が盛んに作られるのは70〜75℃前後とされ、ここを長く通すことが甘さのコツです
  • 甘さを重視するなら、オーブンで低めの温度でじっくり焼くのがおすすめです。電子レンジは手軽ですが焼き芋らしい甘さは出にくい傾向があり、炊飯器は蒸し芋に近い仕上がりになります
  • 電子レンジの加熱しすぎによる発火や、トースターのアルミホイルの扱いに注意し、焼いた後はホイルを外して2時間以内に食べるか冷蔵庫に入れましょう

甘くなる温度の数字は資料によって違って見えますが、何の温度かを分けて考えると、焼き方の工夫がしやすくなります。お手持ちの器具で、ご家庭の焼き芋を楽しんでみてください。

参考資料

本記事の作成にあたって参照した資料です。