街角やイベント会場で、大きな壺から焼き芋を取り出す光景を見かけることが増えました。「壺焼き芋」「つぼ焼きいも」と看板を掲げたお店も、各地に広がっています。

けれども、いざ目の前にすると「石焼き芋と何が違うのだろう」と気になる方も多いのではないでしょうか。ちなみに「壺焼芋(つぼやきいも)」は、冬の季語としても辞書に載っている、古くからある言葉です。

本記事では、壺焼き芋とはどんな焼き芋なのか、石焼き芋との違いや甘くなりやすい仕組みについて、わかりやすくご説明したいと思います。家庭で近い焼き方を試したい方に向けた注意点もまとめました。

壺焼き芋とは?

壺焼き芋とは、壺の形をした容器の中でさつまいもを蒸し焼きにした焼き芋のことです。芋を熱源に直接触れさせない点が、広く知られている石焼き芋との違いになります。ここではまず、基本的な定義と壺の構造についてご説明します。

言葉としての「壺焼芋」

「壺焼芋(つぼやきいも)」は、さつまいもを壺の形をした器に入れて蒸し焼きにしたものを指す言葉として、国語辞典にも収録されています(精選版 日本国語大辞典)。冬の季語としても扱われてきました。

現在のお店では、素焼きの壺の底に炭を置き、さつまいもをつるして焼く方法がよく知られています。ただし、これは代表的な方式のひとつであり、必須の条件ではありません。壺焼きが広まった昭和初期には、燃料としてコークスや木炭が使われ、壺にも陶器のほか、左官職人が鉄筋入りの網とセメント、しっくいで仕上げた特製品がありました(日本いも類研究会『焼き芋小百科』)。

[画像挿入推奨: 壺焼き芋の壺の外観(alt: 焼き芋を焼くための壺)]

壺・熱源・つるし方の基本構造

構造そのものはシンプルです。壺の底に熱源を置き、さつまいもをフックや針金などでつるします。芋が熱源に直接触れないため、焦げつきが起こりにくくなります。

また、ふたを閉じることで壺の中の熱が対流し、芋全体に熱が伝わります。この「熱源に直接触れない」「閉じた空間で熱が回る」という2点が、焼き方の土台です。

現在は、愛知県の常滑焼(とこなめやき)など、伝統的な焼き物の壺を使うお店も知られています。

壺焼き芋と石焼き芋の違い3つ

壺焼き芋と石焼き芋の違いは、突き詰めると「熱の伝わり方」に行き着きます。整理すると、①熱の伝わり方の経路、②焦げつき方、③食感の傾向——この3点です。ここでは順にご説明したうえで、他の焼き方も含めて一覧にまとめます。

違い①:熱の伝わり方

石焼き芋は、専用の窯などで熱した小石の中にさつまいもを埋め、石からの熱で加熱します。芋は石に触れた状態で焼かれます。

一方の壺焼きは、壺の底の熱源から立ちのぼる熱と、温まった壺の壁面からの熱によって、芋を宙づりのまま加熱します。芋が熱源に触れないため、熱が届く経路が異なります。

ただし、どちらの温度上昇が緩やかかは、一概には言えません。壺や石の温度、熱源の強さ、空気の流れ、芋の大きさによって変わるためです。石焼き芋・埋火焼き芋・壺焼き芋は、いずれも時間をかけて加熱する方法として並べて紹介されています(日本いも類研究会『焼き芋小百科』)。

違い②:焦げつき方

石焼き芋は石に接した部分に焼き色がつきやすく、皮が香ばしく仕上がります。この香ばしさこそ石焼き芋の持ち味だと言われています。

これに対して壺焼きは、直接触れる熱源がないため焦げつきが起こりにくいのが特徴です。皮まで食べたい方にとっては、扱いやすい焼き上がりと言えるでしょう。

違い③:食感の傾向

焦げつきにくいことから、壺焼きはしっとりしやすいとお店で説明されることがあります。ただし、焦げにくいことと、内部の水分が多く残ることは別の現象です。同じ品種・同じ大きさで比べたデータは見あたらないため、確立された事実というより、よく語られる傾向として捉えておくとよいでしょう。

なお、どちらが優れているという話ではありません。香ばしさを楽しみたいか、しっとり感を楽しみたいかという、好みの違いと考えるとよさそうです。

焼き方4種の比較

焼き芋の焼き方は、この2つだけではありません。主な方法を一覧にまとめます。

焼き方熱の伝わり方焦げ仕上がりの傾向
石焼き熱した石に直接触れるつきやすい皮が香ばしい
壺焼き熱源と壁面からの熱、壺内の対流つきにくいしっとりしやすいと言われる
かまど焼き平釜・鉄板で蒸し焼き器具による昔ながらの焼き芋
電気オーブン庫内の熱で加熱つきにくい温度と時間を管理しやすい

蒸して作る「ふかし芋」との違いが気になる方は、焼き芋とふかし芋の違いもあわせてご参照ください。

なぜ壺焼きにすると甘くなりやすいのか

お店では「じっくり焼くから甘い」と説明されることがよくあります。これは感覚的な話ではなく、さつまいもの甘さが生まれる仕組みに沿った説明です。かぎを握るのは、でんぷんの変化と「β-アミラーゼ」という酵素、そして温度と時間です。ここでは、その仕組みを順にご説明します。

かぎを握るβ-アミラーゼと糊化

生のさつまいもは、それほど甘くありません。加熱によって甘くなるのは、さつまいもに含まれるβ-アミラーゼという酵素が、麦芽糖(マルトース)という甘み成分をつくり出すためです(日本いも類研究会)。

ただし、この酵素は生のでんぷんには働きかけられません。でんぷんが加熱で水を含んで変化する「糊化(こか)」が起きて、はじめて分解できる状態になります。でんぷんの糊化が始まる温度は、概ね65〜75℃とされています。

一方でβ-アミラーゼは熱に弱く、多くの品種では70℃前後で働きを失うとされています。つまり甘くなるのは、でんぷんが糊化していて、なおかつ酵素がまだ壊れていない、狭い温度の範囲だけということになります(日本いも類研究会『焼き芋小百科』)。

この温度帯はおおむね65〜75℃とされ、ここをどれだけゆっくり通過させられるかが、麦芽糖の生成量を左右します。より詳しい仕組みは、β-アミラーゼの働き熟成・糊化・糖化の関係の記事でも取り上げています。

[画像挿入推奨: 焼き芋の断面と蜜(alt: 加熱によって蜜が出た焼き芋の断面)]

ゆっくり加熱できる焼き方が甘さにつながる

壺焼きは熱源に直接触れない構造で、時間をかけて焼き上げる方法です。石焼きや埋火焼きと同じく、酵素が働ける温度帯を長く保ちやすい焼き方として知られています。

焼き上がりまでの時間は、各店の案内を見ると40分ほどとするお店もあれば、1時間半から2時間かけるお店もあります。公的に定められた基準があるわけではなく、壺の大きさや熱源の状態、さつまいもの太さによって変わります。

反対に電子レンジは温度上昇が速く、糊化したでんぷんと、まだ働きを保っているβ-アミラーゼが同時に存在する時間が短くなるため、甘くなりにくいと言われています。ただし例外もあります。クイックスイートは、でんぷんが約50℃という低い温度から糊化するため、50〜70℃という広い範囲で麦芽糖が生成し、短時間の加熱でも甘くなりやすい品種として育成されました(農林水産省・中谷誠)。

甘さは焼き方だけで決まるわけではない

もっとも、焼き方だけで甘さが決まるわけではありません。品種によってでんぷんの糊化温度やβ-アミラーゼの働きの強さは異なり、収穫後の貯蔵期間によっても甘みは変わります(日本応用糖質科学会)。

「壺で焼いたから甘い」というより、「ゆっくり加熱しやすい焼き方と、甘くなりやすい芋の条件が重なったときに甘くなる」と考えるのが正確です。甘さの指標については、糖度(Brix値)の記事でご説明しています。

壺焼き芋の歴史

壺焼き芋は、近年になって突然現れた新しい焼き方ではありません。かつて街角で親しまれ、一度は主役の座を石焼き芋に譲り、ふたたび目にする機会が増えてきた焼き方です。その流れを簡単に振り返ります。

壺焼きの登場

江戸に初めて焼き芋屋が現れたのは1793年(寛政5年)とされます。当時の焼き方は、かまどに焙烙(ほうろく:素焼きの浅い土鍋)を載せ、重い木のふたをして蒸し焼きにするものでした。焙烙は割れやすく大きく作れないため、客の多い店では、やがて鋳物の大きな平鍋が使われるようになります。

壺焼きが現れたのは、関東大震災の後です。中国の東北地方が元祖とされ、上海を経て、1929年(昭和4年)の暮れ頃に関西へ、翌年には東京へ入り、たちまち500軒以上の壺焼き屋ができたと記録されています(日本いも類研究会『焼き芋小百科』所収、井上浩「江戸・東京の焼き芋屋の移り変わり」)。

壺焼きが急速に広まった理由は2つあったとされます。震災後の東京では目新しいものが好まれたこと、そして壺が場所を取らず、雑貨店や駄菓子店の土間の隅でも副業として営めたことです。

石焼き芋への交代と、ふたたびの注目

その後、焼き芋の主役は石焼き芋へと移ります。1951年(昭和26年)、三野輪万蔵(みのわまんぞう)によって考案された石焼きいもの引き売り屋台が東京に登場し、大きなブームとなりました(農畜産業振興機構「焼きいもブームの歴史とその背景」)。リヤカーや軽トラックで移動できる手軽さが、普及を後押ししたと言われています。

そして2000年代に入ってからの焼き芋ブームのなかで、壺を使う専門店も各地で見かけるようになりました。焼き芋の歴史全体については、焼き芋の歴史と文化の記事でも取り上げています。

壺焼きに向くさつまいもの品種

ゆっくり加熱する焼き方には、相性のよい品種があります。お店で使われる品種にも、ある程度の傾向が見られます。ここでは、どのような系統が選ばれやすいのかをご説明します。

ねっとり系・しっとり系が選ばれやすい理由

お店では、紅はるかやシルクスイートといった、ねっとり系・しっとり系の品種が使われることが多いようです。

紅はるかは、中程度の低温糊化でんぷんを持ち、β-アミラーゼの働きも強いことが報告されています(日本応用糖質科学会)。糊化が低い温度で始まれば、酵素が働ける時間が長くなります。ゆっくり加熱する焼き方とかみ合いやすい品種だと言えます。シルクスイートも、なめらかな口どけと加熱後の甘みで知られる品種です。

一方、高系14号やなると金時などのホクホク系は、粉質でほくほくとした食感が持ち味です。壺焼きに向かないということではなく、求める食感が異なると考えるとよいでしょう。食感の系統についてはホクホク系とねっとり系の違い、品種選びについては焼き芋に向く品種の比較もご参照ください。

お好みや用途に合わせて選べるのが、さつまいもの楽しさでもあります。

家庭で壺焼き芋に近づけるには

専門店の壺をそのまま家庭に持ち込むのは、現実的ではありません。ただ、甘くなりやすい理由は「ゆっくり加熱する」という点にあります。この原理であれば、家庭の調理器具でもある程度は応用できます。あわせて、炭を使う場合の注意点にも触れておきます。

オーブンで低温長時間を再現するコツ

家庭で近い仕上がりを目指すなら、オーブンで低温・長時間の加熱を試す方法があります。高い温度で短時間焼くよりも、低めの温度でじっくり時間をかけたほうが、酵素が働ける時間を長く保ちやすくなります。

加熱時間は、さつまいもの太さによって大きく変わります。細いものと太いものでは、必要な時間が倍近く違うこともあります。竹串がすっと通るかどうかで、焼き上がりを確かめるとよいでしょう。目安については焼き芋のサイズと重さの目安もご参考になります。

焼き上がった後、庫内でしばらく置いておくと、余熱でさらに火が通ります。

[画像挿入推奨: オーブンで焼いたさつまいも(alt: 家庭のオーブンで焼き上げた焼き芋)]

炭や壺を使う場合の注意点

壺や炭を自分で用意して試す方もいらっしゃいますが、安全面には十分な注意が必要です。

炭を燃やすと一酸化炭素が発生します。東京消防庁によると、住宅で起きる一酸化炭素中毒の発生要因としては、七輪や火鉢など炭を使用するものが多くを占めています。屋内や換気の悪い場所、テントの中などで使用すると、一酸化炭素中毒の危険があります。炭火は屋外の風通しのよい場所で扱ってください。

また、加熱した壺は非常に高温になり、やけどの原因になります。取り扱いには耐熱手袋を使い、周囲に燃えやすいものを置かないようにしましょう。使用後の消火も、最後まで確認してください。

よくある質問

最後に、壺焼き芋についてよく寄せられる疑問を3つ取り上げます。買う前に迷いやすい点と、買ったあとの扱いに関する内容です。焼き方や保存の考え方には、ふつうの焼き芋と共通する部分も多くあります。

Q1. 壺焼き芋は石焼き芋より甘いのですか?

焼き方の違いだけで甘さが決まるわけではありません。品種や貯蔵期間、芋の大きさ、焼き上げる温度と時間など、複数の条件が重なって甘さが生まれます。壺焼きは時間をかけて焼く方法ですが、どちらが甘いと一概には言えません。

Q2. 焼き上がりまでどれくらいかかりますか?

お店や芋の太さによって異なります。各店の案内では、40分ほどとするところもあれば、1時間半から2時間かけるところもあります。共通しているのは、時間をかけて焼くという考え方です。

Q3. 買ってきた焼き芋は保存できますか?

焼き芋は水分が多く、常温に長く置くと傷みやすい食品です。すぐに食べない場合は、粗熱を取ってから冷蔵または冷凍で保存し、早めに食べきるようにしてください。なお、紙やアルミホイルに包んだまま常温に長時間置くのは避けてください。異臭や変色、ぬめりがある場合は食べないでください。

くわしくは焼き芋の日持ちと保存方法焼き芋を上手に冷凍する方法の記事でご説明しています。

まとめ

壺焼き芋について、石焼き芋との違いと甘くなりやすい仕組みをご説明してきました。最後に要点を整理します。

壺焼き芋は、壺の形をした容器の中でさつまいもを蒸し焼きにした焼き芋です。素焼きの壺に炭火という組み合わせがよく知られていますが、それは代表的な方式のひとつです。石焼き芋との違いは、①熱の伝わり方の経路、②焦げつき方、③食感の傾向の3点に整理できます。

甘くなりやすいのは、でんぷんの糊化とβ-アミラーゼの働きが重なる温度帯を、長く保ちやすい焼き方だからです。ただし甘さは品種や貯蔵期間にも左右されるため、焼き方だけで決まるわけではありません。

お店で見かけたときは、石焼き芋との食感の違いを比べてみてはいかがでしょうか。