ヤラピンとは

はじめに

はじめに

さつまいもを切ったとき、断面から白い液がにじみ出て、手や包丁がべたついた経験はないでしょうか。

また、買ってきたさつまいもの皮に、黒いベタベタしたものが付いていることもあります。

この白い液と黒い付着物に関係しているのが、「ヤラピン」という成分です。

「これは蜜なの?」「食べても平気なの?」と気になった方もいるのではないでしょうか。

本記事では、ヤラピンとは何か、なぜ黒く変わるのか、食べても問題ないとされているのかについて、日本いも類研究会などの資料をもとに、わかりやすくご説明したいと思います。

扱うのは、生のさつまいもで見られる白い液と黒い付着物です。

なお、本記事は成分としての正体と性質を解説するもので、体への働きについては取り上げていません。

さつまいもや焼き芋の傷み・食中毒で気をつけたいことの全体は、焼き芋の食中毒と保存の注意点を解説した記事でまとめています。

ヤラピンとは?さつまいもの乳液に含まれる樹脂配糖体

ヤラピンは、さつまいもを切ったときににじみ出る白い乳液に含まれる樹脂配糖体(じゅしはいとうたい)です。

日本いも類研究会やコープこうべ商品検査センターは、この白い液そのものを「ヤラピン」、または「ヤラッパ樹脂」と呼んで説明しています。

ここでは、どんな成分なのか、さつまいものどこに含まれているのかを順にご説明します。

樹脂配糖体という成分のなかま

樹脂配糖体という成分のなかま

まずは「樹脂配糖体」という言葉から見ていきましょう。

「配糖体」とは、糖が、糖ではない別の物質と結びついたものを指します。

津久井亜紀夫氏(東京農業大学)は、「サツマイモの樹脂配糖体『ヤラピン』」(いも類振興情報 111号・2012年)で、ヤラピンを樹脂配糖体として紹介しています。

そのうえで、ヤラピンを構成する成分(ヤラピン酸)について、ヤラピノール酸と呼ばれる脂肪酸の仲間に糖が結合した構造を説明しています。

また、高系14号の根を調べた研究では、6種類の樹脂配糖体が分離されています。

これらは、ヤラピノール酸と糖が環状に結びついた構造をもつと報告されています(Noda & Horiuchi 2008)。

なお、結びついている糖の組み合わせは成分によって異なるとされ、資料によっても記載に違いがあります。

本記事では細かな構造には立ち入らず、「ヤラピノール酸と糖からなる樹脂配糖体」という点を押さえておくことにします。

皮の近くに分布し、葉や茎にも含まれる

皮の近くに分布し、葉や茎にも含まれる

この成分は、いものどこにでも同じように含まれているわけではありません。

日本いも類研究会は、いもの横断面でいうと皮の近くに分布しているとしています。

津久井氏も、塊根(かいこん:肥大した根の部分)を切ると、周皮(いもの表面を覆う組織)の部分から白い液がにじみ出てくると述べています。

また、樹脂配糖体は塊根だけでなく、葉や葉柄、茎にも存在するとされています(津久井 2012)。

コープこうべ商品検査センターも、ヤラピンはいも本体だけでなく葉や茎にもあると説明しています。

加熱しても変質しにくいと説明されている

加熱との関係についても触れておきます。

日本いも類研究会とコープこうべ商品検査センターは、ヤラピンは熱に対して安定で、焼いても蒸しても変質しないとしています。

ただし、加熱の温度や時間ごとにどれだけ残るかを示したデータは、今回の調査では確認できませんでした。

「さつまいもだけの成分」とは言えない理由

「さつまいもだけの成分」とは言えない理由

ヤラピンは「さつまいも特有の成分」と紹介されることがありますが、当サイトではその書き方をしていません。

さつまいもはヒルガオ科の植物です。

津久井氏は、サツマイモの仲間であるヒルガオ、アサガオ、ヨウサイ(アサガオ菜)などの植物には、樹脂配糖体と呼ばれる化合物が広く分布しているとしています。

そのうえでヤラピンを、アサガオの樹脂配糖体の仲間と考えられるものとして紹介しています(化学構造は同じではないとも述べています)。

別名の「ヤラッパ樹脂」に出てくるヤラッパも、メキシコ原産のヒルガオ科のつる草で、その塊根に樹脂状の成分が含まれます(改訂新版 世界大百科事典)。

さらに、ほかの食品と網羅的に比べた資料も確認できていません。

そのため、「さつまいもだけに含まれる」と言い切ることはできません。

白い液が黒く変わる仕組み

白い液が黒く変わる仕組み

切り口ににじんだ白い液は、そのまま置いておくと黒く変わっていきます。

日本いも類研究会は、放っておくと「黒いタール状の物質に変ります」と説明しています。

ここでは、なぜ黒くなるのか、そして買ってきたさつまいもの皮に黒い付着物が付いているのはなぜかをご説明します。

一緒に含まれるポリフェノールと酵素が関わっている

一緒に含まれるポリフェノールと酵素が関わっている

黒く変わる仕組みについて、津久井氏は、ヤラピンがポリフェノールと共存していることを挙げています。

白い液が空気に触れると、ポリフェノールオキシダーゼ(ポリフェノールを酸化させる酵素)の働きで酸化重合(酸化して互いに結びつき、大きな分子になること)し、やがて黒ずんでくる、という説明です。

つまり、白い液が黒くなる変化には、ヤラピンだけでなく、一緒に含まれているポリフェノールと酵素が関わっていると考えられます。

なお、切った断面そのものが時間とともに褐色に変わる変色(褐変)もあります。

こちらは、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が、酸化酵素の働きで空気中の酸素と結合して起こるとされています(コープこうべ商品検査センター)。

当サイトでは、表面や切り口に付いた乳液が黒くなるものと、断面そのものの変色を分けて扱っています。

それぞれの違いはさつまいもの黒い斑点の原因を解説した記事でご説明しています。

皮の表面に黒い付着物が付くのはなぜ?

皮の表面に黒い付着物が付くのはなぜ?

まだ包丁を入れていないのに、皮に黒いベタベタが付いていることがあります。

コープこうべ商品検査センターは、この付着物もヤラピンによるものとしています。

収穫したときに切り口から出た液が付いたか、さつまいも同士がぶつかって傷口からしみ出た液が付いたものと考えられます。

それが時間とともに黒く変化した、という説明です。

さつまいもは、収穫のときにつるから切り離されます。

また、収穫から店頭に並ぶまでの間に、いも同士がぶつかることもあります。

そうした切り口や小さな傷からにじんだ白い液が、時間をかけて黒く変わり、皮の表面に残っていると考えるとイメージしやすいと思います。

黒い付着物は「蜜」ではない|甘さとの関係は?

黒い付着物は「蜜」ではない|甘さとの関係は?

皮に付いた黒いベタベタは、見た目が黒蜜のようなので「蜜が出ている」「甘いさつまいもの目印」と紹介されることがあります。

しかし、生のさつまいもに付いているこの黒い付着物は、蜜ではありません。

ここでは、焼き芋の蜜との違いと、甘さとの関係を整理します。

焼き芋の蜜とは別のもの

まずは、焼き芋の蜜との違いです。

焼き芋の切り口ににじむ蜜は、加熱によって作られ、濃縮された糖分です。

一方、生のさつまいもの皮に付いている黒いものは、白い液が黒く変わったもので、糖ではありません。

「配糖体」には「糖」の字が入っていますが、糖が別の物質と結びついた形で含まれている成分です。

甘さのもとになる麦芽糖やショ糖とは別のものです。

見た目が似ていても、両者はまったく別のものとお考えください。

付着物の多さと甘さの関係は確かめられていない

「黒いベタベタが付いているさつまいもほど甘い」という選び方を見かけることもあります。

さつまいもの甘さには、貯蔵している間に増える糖と、加熱したときに作られる麦芽糖の両方が関わっています(くわしくはさつまいもの甘さの秘密|「熟成」「糊化」「糖化」とはをご覧ください)。

一方で、ヤラピンの量と糖度の関係を裏付ける一次情報は、今回の調査では確認できませんでした(2026年9月時点)。

この点については、2022年のJ-CASTニュースの記事で、日本いも類研究会の事務局長補佐(記事掲載時の肩書き)である橋本亜友樹氏も触れています。

ヤラピンと甘さの関連について「きちんと調査した論文などがないので断定はできない」としたうえで、関係はないと考えている、という見解です。

そのため、黒い付着物の有無や量で甘さを判断することはできません。

傷や傷みの少ないものを選ぶうえでは、形や重み、表面の状態が参考になります。

ただし甘さそのものには、品種や貯蔵の状態、加熱の仕方などが関係するため、外見だけで見分けるのは難しいとお考えください。

選び方については美味しいさつまいもの見分け方でご紹介しています。

ヤラピンは食べても大丈夫?

ヤラピンは食べても大丈夫?

白い液や黒い付着物が口に入っても問題ないのか、気になる方もいると思います。

ここでは、生のさつまいもを切ったときに出る白い液と、皮に付いた黒い付着物を対象に、成分としての扱いと、あわせて注意しておきたい点をご説明します。

成分としては「食べても健康に害はない」とされている

まずは、成分そのものについての説明です。

コープこうべ商品検査センターは、切り口から出る白い液について、ヤラピンは「食べても健康に害はありません」と説明しています。

皮の表面の黒いものについても、ヤラピンによるものとしたうえで、同じく「食べても健康に害はありません」としています。

ここで押さえておきたいのは、これがヤラピンという成分そのものについての説明だという点です。

「さつまいもに付いている黒いものは、どれも食べて問題ない」という意味ではありません。

見た目や食感が気になる場合の扱い方は、後ほど「調理のときの扱い方」でご紹介します。

さつまいもの黒さは、ヤラピンだけが原因ではない

さつまいもの黒さは、ヤラピンだけが原因ではない

注意しておきたいのは、さつまいもが黒く見える原因はヤラピンだけではない、ということです。

たとえば、切った断面が空気に触れて起こる変色があります。

冷やしすぎによる内部の褐変もあり、これは低温障害(さつまいもを冷やしすぎたときに起こる傷み)と呼ばれます。

さらに、黒斑病(こくはんびょう)というカビによる病気の病斑も、黒い斑点として現れます。

これらは初期には見た目が似ていることがあり、家庭で確実に見分けられるものではありません。

「ツヤがあってベタベタしているからヤラピンだ」と、見た目だけで決めることはできないとお考えください。

次のような状態のものは、食べないでください。

  • 表面がくぼんだ円形の黒い斑点がある
  • カビが生えている
  • 口に入れたときに苦味がある、異臭がする
  • 押すと柔らかい、ぬめりがある
  • 黒っぽい変色が内部の広い範囲に及んでいる

ただし、これらにあてはまらないことは、安全の証明にはなりません。

初期の病斑は見分けにくいうえ、食中毒の原因となる細菌は、見た目やにおいをほとんど変えないことがあります。

見た目に異常が見当たらない場合でも、冷蔵庫に長く入れていた、買ってから日数が経っているなど、保存の履歴もあわせて考えることが大切です。判断に迷ったときは、食べないという選択をおすすめします。

原因ごとの詳しい説明は、さつまいもの黒い斑点は食べられる?原因4つと注意したい病斑でご紹介しています。

調理のときの扱い方

調理のときの扱い方

成分としては健康に害はないとされていますが、べたつきや黒い付着物は、調理のときに気になるものです。

ここでは、皮に付いた黒い付着物と、切ったときの白い液や切り口の変色について、扱い方をまとめます。

皮の黒い付着物は、無理にこすらず、気になれば厚めにむく

皮に付いた黒い付着物は、水洗いだけでは落ちにくいことがあります。

保存しておくさつまいもの場合は、無理にこすり落とそうとするのは避けましょう。

表皮に傷がつくと、病原菌の侵入口になるおそれがあるためです。

また、濡れた状態は微生物が繁殖しやすいため、洗うのは調理の直前がよいと言われています。

調理するときに黒い付着物が気になる場合は、その部分を厚めにむいてから使うとよいでしょう。

皮ごと調理したい場合も、気になる部分だけを取り除いてから調理する方法があります。

切ったときの白い液と、切り口の変色

さつまいもを切ると、断面に白い液がにじみ、手や包丁、まな板に付くことがあります。

この白い液は、放っておくと黒く変わると説明されています(日本いも類研究会)。

手や調理道具に付いたときは、黒く変わる前に早めに洗い流しておくとよいでしょう。

また、切った断面が時間とともに褐色に変わる変色は、防ぐ方法があります。

コープこうべ商品検査センターは、水にさらして空気に直接触れないようにする方法と、切ったあとすばやく加熱して酵素の働きをなくす方法を挙げています。

ヤラピンについてよくある質問

ヤラピンについてよくある質問

ヤラピンについて、気になりやすい疑問をまとめました。

体への働き、品種による違い、ほかのいもとの比較など、本文では詳しく触れなかった点を取り上げます。

いずれも、今回の調査で確認できた範囲でお答えします。

Q1. ヤラピンは体に良い成分ですか?

ヤラピンについては、体への働きと結びつけて紹介する情報を見かけることがあります。

ただ、ふだんの食事でさつまいもを食べたときに、この成分が人の体にどう働くのかを確かめた一次情報は、今回の調査では確認できませんでした。

さつまいもは食品です。

当サイトでは、食品に含まれる成分について、含まれていることや性質の説明にとどめ、体への働きは紹介していません。

持病がある方や、体調・食事について気になることがある方は、医師や管理栄養士にご相談ください。

Q2. 品種によってヤラピンの量は違いますか?

品種によって量が違うという話を耳にすることはあります。

ただ、品種ごとの量を同じ条件で比べた一次データは、今回調べた資料の範囲では見当たりませんでした。

そのため当サイトでは、特定の品種を「ヤラピンが多い品種」とは紹介していません。

Q3. じゃがいもなど、ほかのいもにも含まれますか?

ヤラピンは樹脂配糖体の一つで、樹脂配糖体は、さつまいもの仲間であるヒルガオやアサガオなどの植物に広く分布するとされています。

一方で、じゃがいも(ナス科)やさといも(サトイモ科)など、分類の異なるいもと比べた一次情報は見当たりませんでした。

「いも類ではさつまいもだけ」という説明も見かけますが、当サイトでは断定を控えています。

まとめ

まとめ

ここまで、ヤラピンの正体と性質、食べるときの考え方をご説明してきました。

最後に、ポイントを整理します。

  • ヤラピンは、さつまいもを切ったときに出る白い乳液に含まれる樹脂配糖体です。皮の近くに分布し、葉や茎にも含まれます
  • 樹脂配糖体は、さつまいもの仲間であるヒルガオやアサガオなどの植物に広く分布するとされており、「さつまいもだけの成分」とは言えません
  • 白い液は、一緒に含まれるポリフェノールと酵素の働きで黒く変わると説明されています。皮の黒い付着物は、切り口や傷からにじんだ液が黒くなったものと考えられています
  • 黒い付着物は「蜜」ではなく、その有無や量で甘さを判断することはできません
  • コープこうべ商品検査センターは、ヤラピンという成分について「食べても健康に害はありません」としています。ただし、さつまいもが黒くなる原因はほかにもあり、家庭で確実に見分けることはできません

切り口の白い液や皮の黒いベタベタは、さつまいもを扱っていると出会うことのあるものです。

正体を知っておくと、慌てずに扱えるようになります。

そのうえで、黒さの原因がはっきりしないときや、判断に迷ったときは、食べないという選択をしていただければと思います。

黒い付着物のほかに気をつけたい傷みのサインや、焼いたあとの焼き芋の扱いは、焼き芋の食中毒と保存の注意点を解説した記事でまとめています。

参考資料

本記事の作成にあたって参照した資料です。内容の詳細は、それぞれの資料でご確認いただけます。

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