「紫芋」と「紅芋」は何が違うの?

はじめに

沖縄旅行の土産品やスイーツの素材として知られる「紫芋」や「紅芋」。

しかし、紫芋と紅芋の違いを正確に説明できる人は意外に少ないかもしれません。

さらに海外では「Ube(ウベ)」と呼ばれる紫ヤムが注目され、日本の紅芋と混同されることもあります。

本記事では、紫芋・紅芋・Ube(紫ヤム)の違いを分かりやすく解説し、さらに品種や味・色素(アントシアニン)・用途・栄養価・入手性・生芋の持ち出し規制などを詳しく紹介します。

紫芋と紅芋の基本と定義

まずは、紫芋と紅芋がそれぞれどのようなものなのかをご説明します。

紫芋(むらさきいも)とは

紫芋

紫芋はサツマイモ(学名 Ipomoea batatas)の一品種で、中身が濃い紫色をしています。

紫色はアントシアニンという水溶性の色素によるもので、渋みが少なく、甘さは控えめですが上品な風味が特徴です。

日本国内では「アヤムラサキ」「ムラサキマサリ」「アケムラサキ」など、アントシアニン含有量が高い品種が育成され、焼き芋やスイートポテト、紅芋タルトなどさまざまな加工品に利用されています。

一般的に紫芋は観賞用ではなく、食用のサツマイモであり、栄養成分や形質は他のサツマイモと同じく「つる性多年草の塊根」です。

紅芋(べにいも)とは

紅芋

沖縄では紫色のヤムイモ(Dioscorea alata)を「紅山芋」「紅芋」と呼ぶ場合もありますが、一般的にお土産やスイーツに使われている「紅芋」はサツマイモに由来しています。

お土産やスイーツに使われている「紅芋」は沖縄県を中心に栽培される紫色のサツマイモの総称で、代表的な品種に「宮農36号」や「備瀬」があります。

お土産で人気の紅芋タルトの原料としては「美ら恋紅(ちゅらこいべに)」や「おぼろ紅」が有名です。(参考:『サツマイモ基腐病抵抗性に優れる沖縄向け加工原料用かんしょ「おぼろ紅」』)

沖縄県の農業資料では、以前は赤紫の皮と黄色い肉色のサツマイモを「紅芋」と呼んでいましたが、1970年代に紫肉色の品種「宮農36号」が普及してからは紫肉のサツマイモを「紅芋」と呼ぶようになりました。

つまり、現在の紅芋は紫芋の一種で、沖縄での呼び名と考えると分かりやすいでしょう。

沖縄産紅芋は湿気に強く粘質で甘さがあるため、紅芋タルトやアイスなどの土産菓子に使われるほか、醸造酒「紅芋焼酎」にも利用されます。

紫芋・紅芋の分類と品種

サツマイモの分類

サツマイモはヒルガオ科サツマイモ属(Ipomoea)に属する植物で、根が肥大して塊根を形成します。

日本では多くの品種が育成されており、食用としての大きな分類は以下の通りです。

  • 黄色肉品種(一般的なサツマイモ) – 皮は紫がかった赤色で中身は黄色〜クリーム色。甘味が強く焼き芋に適します。
  • 紫肉品種(紫芋・紅芋) – 皮と中身が紫色でアントシアニンを多く含む。甘味は穏やかで加工向き。

紫芋はさらに、食味が良く焼き芋や蒸し芋に向く食用系と、色素抽出に適した加工用系に分けられます。

食用系の代表例には「種子島ムラサキ」や「パープルスイートロード」などがあり、加工用系にはアントシアニン含量の高い「アヤムラサキ」「ムラサキマサリ」「アケムラサキ」などがあります。

加工用系は甘味が弱いため、そのまま焼き芋にするとホクホク感が少ないですが、色素原料として価値があります。

主な紅芋(紫肉サツマイモ)品種

以下に沖縄や九州で多く栽培される代表的な品種と特徴をまとめます。

  • 宮農36号/備瀬 – 沖縄県読谷村で育成された紫肉品種で、粘質で甘味があり紅芋タルトなどに使われます。アントシアニン含量は一般的な紫芋に比べやや少ないものの、食味が良いのでスイーツ用に人気があります。
  • パープルスイートロード – 鹿児島県で育成された食味良好な品種で、焼き芋としても美味しい。紫色は淡めですが滑らかな食感です。
  • アヤムラサキ(アヤムラサキ系) – 農研機構が育成した加工用品種で、アントシアニン含量が非常に高く、色素原料や焼酎用に利用されます。
  • ムラサキマサリ・アケムラサキ – 2000年代に登場した新品種で、病害抵抗性に優れつつアントシアニン含量が高い。

Ube(ウベ、紫ヤム)との違い

近年SNSや海外のカフェメニューで人気を集めるUbe(ウベ)は、フィリピンやインドネシアで食べられるヤムイモの一種です。

学名はDioscorea alata、和名はダイジョ(大薯)または紅山芋で、ヤマノイモ科の植物です。

紫色の芋といっても、サツマイモとは分類がまったく異なります。

  • 分類の違い – サツマイモはヒルガオ科の根が肥大したものであり、ヤムイモ(ウベ)はヤマノイモ科の地下茎(いも状茎)です。食感や粘りも異なり、ウベは粘り気が強く粉っぽさが少ないのが特徴です。
  • 名前の混同 – 英語では紫色のサツマイモを “purple sweet potato” と呼び、ウベは “purple yam” と呼ばれます。日本では紅芋を“purple yam”と訳すことがあり混同されやすいですが、沖縄の紅芋=サツマイモ、ウベ=ヤムイモで別物です。
  • 色素の違い – ウベもアントシアニン系色素を含むため紫色ですが、サツマイモのアントシアニンはアシル化糖結合型が多く、熱やpHに強く安定しています。ウベの色素組成は異なり、加工時に変色しやすいと言われます。

海外レシピで“ube ice cream”や“ube cheesecake”が紹介されている場合、日本の紅芋では味や粘りが異なるため再現が難しいことに注意しましょう。

色素・アントシアニンと機能性

紫芋や紅芋の最大の特徴は、豊富なアントシアニン色素です。

この色素はブドウやブルーベリーにも含まれるポリフェノールの一種で、紫芋ではアシル化糖結合型アントシアニンが主体であるため熱や酸に強く、加工食品でも鮮やかな紫色を保てることが知られています。

農研機構による研究では、アントシアニンが抗酸化作用や脂質ラジカル消去作用、抗変異原性、アンジオテンシンI変換酵素阻害作用を示すことが報告されています。

また、「アヤムラサキ」のアントシアニンを摂取すると血中に吸収され、ラットの血流改善や収縮期血圧低下などの生理効果が確認されています。

これらの研究はあくまで実験レベルですが、紫芋の健康機能を裏付けています。

アントシアニン含量は品種により大きく異なります。

農研機構の資料では、「アケムラサキ」の平均含量が587 mg/100 g、「アヤムラサキ」が445 mg/100 g、「パープルスイートロード」が160 mg/100 gと報告されており、加工向け品種ほど含量が高い傾向にあります。

味わい・食感の違い

  • 紫芋/紅芋(サツマイモ) – 甘さは控えめで風味が上品。繊維がやや多くホクホク感は少ないですが、しっとりした食感が楽しめます。含まれるアントシアニンの働きで蒸しても焼いても色が抜けにくく、和洋菓子に使われることが多いです。
  • ウベ(紫ヤム) – 粘り気が強くもっちりした食感で、淡い甘味があります。ヤムイモ特有のぬめりがあるため日本の山芋や長芋に近い食感で、デザートはもちろん煮込み料理にも利用されます。

栄養価の比較

文部科学省の食品成分データベースによると、紫芋(むらさきいも)の皮なし生芋100 gあたりの栄養値はエネルギー123 kcal、水分66 g、たんぱく質1.2 g、脂質0.3 g、炭水化物31.7 g、食物繊維2.5 g、カリウム370 mg、ビタミンC 29 mgなどです。

一方、同じ100 gの紫芋を蒸すと食物繊維は3 gに増え、ビタミンCは27 mgになります。

ダイジョ(ウベ)については五訂増補日本食品標準成分表を元にした資料で、生の紫ヤム100 g当たりエネルギー109 kcal、たんぱく質2.6 g、脂質0.1 g、炭水化物25.0 g、食物繊維2.2 g、カリウム490 mg、ビタミンC 17 mgが報告されています。

紫芋よりたんぱく質がやや多く、カリウムも豊富ですが、カロリーはわずかに低いです。

こうした栄養価の差は品種や栽培環境で変動しますが、紫芋はビタミンCや食物繊維が多く、ウベはカリウムやビタミンB群がやや多いと覚えるとよいでしょう。

用途と食べ方

用途紫芋・紅芋(サツマイモ)Ube(紫ヤム)
菓子・デザートタルト、チップス、ようかん、アイスクリーム、クッキーなど。鮮やかな紫色が映えるため、お土産菓子に最適です。フィリピンではウベハロハロ(かき氷)やウベアイス、パンケーキなどに使用。粘りが強くクリーミーな仕上がりになる。
料理焼き芋、蒸し芋、天ぷら、汁物の具やスープの色付け。紅芋焼酎やリキュールなど酒類にも利用される。煮込み料理、練り物、デザートベースとして使われる。山芋のようにすりおろして生食することも。
加工原料色素抽出(天然着色料)、粉末加工、健康食品。アントシアニン含量が高い品種ほど色素利用に適する。デザートや加工食品の色付けだが、日本では一般的な流通が少なく、輸入品を利用することが多い。

入手性と生芋の持ち出し規制

紫芋・紅芋は九州・沖縄の産地直売所やスーパー、インターネット通販で入手できます。

沖縄旅行で購入した紅芋を本土へ持ち帰る場合、農林水産省の植物防疫所による移動制限に注意が必要です。

沖縄のサツマイモにはサツマイモコガネムシやアリモドコガなどの寄生虫が存在し、本州へ持ち込むと深刻な被害が出る恐れがあります。

植物防疫所のFAQでは、沖縄から生のサツマイモを持ち出すことは禁止されており、持ち出す場合は47〜48 °Cで蒸熱消毒しなければなりません。

この消毒は植物防疫所で無料で受けられますが、旅行者が手軽に持ち出すのは現実的ではないため、加工済みの商品を土産に選ぶのがおすすめです。

Q3 : 沖縄や奄美の紅イモやサツマイモを本土に送ってもらいたいと思うのですが、どうしたらよいでしょうか?

A : 消毒しなければ、持ち出すことはできません。
消毒には時間がかかりますし、消毒した後にイモを入れる容器についても条件がありますので、あらかじめ那覇植物防疫事務所又は、門司植物防疫所名瀬支所にお問い合わせください。

植物検疫所 よくあるご質問(国内旅行編)

紫芋と紅芋、Ubeの比較表

以下の比較表は、紫芋(一般的な紫肉サツマイモ)、紅芋(沖縄の紫芋)、ウベ(紫ヤム)の違いをまとめたものです。

比較項目紫芋(紫肉サツマイモ)紅芋(沖縄の紫芋)Ube(ウベ/紫ヤム)
分類・学名ヒルガオ科サツマイモ属 Ipomoea batatas同左(沖縄での呼称)ヤマノイモ科ヤマノイモ属 Dioscorea alata
起源・主産地中南米起源。日本では九州・関東・四国で栽培。沖縄県で1970年代以降に栽培拡大。東南アジア・太平洋諸島原産。フィリピンなどの熱帯地域で栽培。
形態根が肥大した塊根で、細長い形が多い。紫芋と同じ塊根。粘質で丸みがあり、大きさは中〜小。地下茎が肥大したヤムイモ。丸く大型で、粘り気が強い。
肉色と皮色皮は赤紫、肉は濃紫色。品種により紫の濃淡が異なる。皮・肉とも鮮やかな紫色で、色が均一。皮は褐色〜黒紫色、肉は紫色。品種により白や薄紫色もある。
味・食感甘さ控えめで上品な味。ホクホクというよりしっとり。やや粘りがあり甘味が強い品種もある。加工品向き。粘り気が強くクリーミー。山芋に似た食感。
アントシアニン含量品種により160〜587 mg/100 g。アシル化糖型で熱に強い。宮乃36号・ビセはアントシアニン含量が一般品種より低めだが食味良好。詳細値は不明だが紫色の原因はアントシアニンで、熱やpHにやや弱い。
栄養成分(100 gエネルギー123 kcal、たんぱく質1.2 g、脂質0.3 g、炭水化物31.7 g、食物繊維2.5 g、ビタミンC 29 mg。同左。エネルギー109 kcal、たんぱく質2.6 g、脂質0.1 g、炭水化物25.0 g、食物繊維2.2 g、ビタミンC 17 mg。
主な用途焼き芋、蒸し芋、スイーツ、色素原料、健康食品。紅芋タルト、チップス、焼酎など沖縄土産に。フィリピンの伝統菓子、デザートベース、すりおろして料理にも。
持ち出し制限産地からの生芋移動は自由(ただし病害がある地域を除く)。沖縄県から本土への生芋持ち出しは禁止。防疫所で蒸熱消毒が必要。国内では流通量が少なく持ち出し規制なし。

まとめ

まとめ

紫芋と紅芋は同じサツマイモであり、特に沖縄産の紫肉品種を紅芋と呼ぶことをご理解いただけたでしょうか。

両者はアントシアニンを豊富に含み、鮮やかな紫色と上品な甘さが特徴です。

食味や色素含量は品種により大きく異なるため、食用にするなら「パープルスイートロード」や「宮乃36号」、色素原料なら「アヤムラサキ」や「アケムラサキ」など目的に応じて選ぶと良いでしょう。

なお、海外で話題のUbe(紫ヤム)は全く別種のヤムイモで、食感や栄養価が異なります。

旅行のお土産や料理に紫芋・紅芋を活用する際には、沖縄からの持ち出し規制に注意し、加工品を購入するのがおすすめです。

紫芋の豊富なアントシアニンは抗酸化作用や血圧調整などの健康効果が期待されており、お菓子づくりはもちろん、スムージーやサラダの彩りに取り入れて健康的な食生活を楽しんでみてください。

さつまいもスイーツ

焼き芋に最適なサツマイモ品種