秋から冬にかけて、スーパーや直売所でさつまいもを買う機会が増えます。ところが家に持ち帰って袋から出してみると、皮にあめ色や黒のシミがついていたり、包丁を入れた断面に黒い斑点が浮かんでいたりして、思わず手が止まることがあります。
さつまいもの黒い斑点は、原因がひとつではありません。ほとんど気にしなくてよいものから、食べない方がよいものまで、性質のまったく異なる現象が、どれも「黒い斑点」として目に入ってきます。そのため「黒い=傷んでいる」とも「黒い=甘い証拠」とも言い切れないのが、このテーマのややこしいところです。
本記事では、さつまいもの黒い斑点について、原因を4つに切り分けたうえで、食べてよいかどうかをどのように考えればよいかを、わかりやすくご説明したいと思います。手元のさつまいもを前にして迷っている方に向けた記事です。
さつまいもの黒い斑点、原因は大きく4つ
さつまいもの黒い斑点は、大きく分けて4つの原因が考えられます。表面についた乳液が黒く変わったもの、切り口が空気に触れて変色したもの、冷やしすぎで内部が褐色になったもの、そして病気による病斑です。それぞれ仕組みも、安全面での意味合いも違います。なお本記事では、購入時・保存中・切った直後に見られる黒さを扱います。加熱したあとに起こる黒ずみには別の仕組みが関係することがあり、ここでは扱いません。まずは全体像を整理しておきましょう。
どこが黒いか・いつから黒いかが手がかりになります
原因を絞り込むときの手がかりは、「どこが黒いか」と「いつから黒いか」の2つです。とくに切り口については、包丁を入れた時点ですでに黒かったのか、しばらく置いてから黒くなってきたのかで、考えられる原因が変わります。
| 原因 | 黒くなる場所 | 見え方 | いつから黒いか |
|---|---|---|---|
| ①乳液の黒変 | 皮の表面・ヘタ付近・切り口 | あめ色〜黒の樹脂状のシミ。べたつくことがある | 買った時点ですでにある |
| ②切り口の変色 | 切った断面 | 全体が黒っぽい、または細かい点状 | 切ってしばらくすると出てくる |
| ③内部の褐変 | 断面の内側、皮のすぐ下 | 褐色〜黒っぽい斑点やかたまり | 切った時点ですでにある |
| ④病斑 | 皮の表面から内部へ | 表面がくぼんだ円形の黒い斑点 | 買った時点、または保存中に広がる |
この表はあくまで目安です。次の項目でご説明するとおり、これだけで原因を確定できるわけではありません。
ただし、見た目だけでは言い切れません
先にお伝えしておきたいことがあります。上の4つは、家庭で確実に見分けられるものではありません。
理由は大きく2つあります。ひとつは、複数の原因が同時に起きていることがあるためです。冷やしすぎで弱ったさつまいもは傷みやすくなり、そこに別の変化が重なることがあります。もうひとつは、④の病気による病斑が、初期には他の変色と見た目が似ていることです。上の表で「表面がくぼんだ円形」と書きましたが、これは症状が進んだ状態の特徴です。初期からそう見えるとは限りません。
インターネット上には「黒い斑点はこの原因です」と一つに決めて説明している記事も見かけます。しかし実際には、同じ見た目から複数の原因が考えられます。原因を知ることと、目の前のさつまいもの原因を特定できることは、別の話だとお考えください。
ですから、この記事の原因の切り分けは、「何が起きているのかを理解するため」のものです。「自分で安全だと判断するため」のものではありません。判断の考え方については、後半の「迷ったときの考え方」であらためてご説明します。
①表面・切り口の黒い付着物|ヤラピンを含む乳液が黒く変わったもの
買ってきた時点で、皮の表面やヘタのまわり、切り口にあめ色〜黒っぽい樹脂状のシミがついていることがあります。これは、さつまいもから出た乳液が時間の経過とともに黒く変化したものです。さつまいもの黒い斑点のなかでは、よく目にするパターンのひとつです。なお、断面に見える黒っぽい筋とは別のものですので、あわせてご確認ください。
ヤラピン(さつまいもの乳液に含まれる樹脂配糖体)とは
さつまいもを切ったときに、断面から白い液がにじみ出てくることがあります。この乳液に含まれているのが、ヤラピンという樹脂配糖体です。
ヤラピンはさつまいもの塊根(かいこん:肥大した根の部分)だけでなく、葉や茎にも含まれています。コープこうべ商品検査センターは、ヤラピンという成分そのものについて「食べても健康に害はありません」と説明しています。
成分そのものについてはヤラピンを解説した記事でくわしく取り上げています。
白い乳液が、どうして黒く変わるのか
もともと白い乳液が、なぜ黒いシミとして残るのでしょうか。これは、時間の経過とともに乳液が黒く変化するためです。
同センターによれば、収穫のときに切り口から出た液が付着することがあります。また、さつまいも同士がぶつかって傷ついた部分からにじみ出た液が付着することもあります。それらが黒く変化したものと考えられています。つまり、黒いシミがついているさつまいもは、どこかに傷や切り口があったさつまいもだということになります。
洗っても落ちにくいのが特徴です。こすり落とそうとすると表皮を傷つけてしまいます。表皮の傷は、後半でご説明するとおり病原菌の侵入口になりますので、無理に落とそうとしない方が安心です。
これは「蜜」ではなく、甘さの目安にもなりません
ここは誤解が広がりやすいところですので、はっきりお伝えしておきます。生のさつまいもの表面についている黒いシミは、「蜜」ではありません。
焼き芋の切り口ににじむ蜜は、加熱によって作られ、濃縮された糖分です。一方、生のさつまいもの表面にあるシミはヤラピンを含む乳液が黒く変化したもので、糖ではありません。両者はまったく別のものです。
「黒い蜜が出ているものは甘い」という選び方を見かけることがありますが、ヤラピンと糖度の関係を裏付ける一次情報は確認できていません(2026年9月時点)。黒いシミの有無で甘さを判断することはできません。傷や傷みの少ないものを選ぶうえでは、形や重み、表面の状態が参考になります。ただし甘さそのものには、品種、貯蔵の状態、加熱による糖の変化などが関係するため、外見だけで見分けるのは難しいとお考えください。選び方についてはおいしいさつまいもの見分け方でご説明しています。
②切り口の変色|ポリフェノールが酸素と結びついて起こる
調理のために切ったときはきれいだったのに、少し目を離した間に断面が黒っぽくなっていた——という経験はないでしょうか。これは①とは別の現象で、切ってから起こる変色です。りんごの切り口が茶色くなるのと同じ仕組みが関係しています。
切ってしばらくすると黒っぽくなる仕組み
このタイプの変色は、さつまいもに含まれる成分と空気中の酸素が結びつくことで起こります。
コープこうべ商品検査センターによれば、さつまいもにはポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が含まれています(りんごなどと同様に、とくに表皮の近くに多く含まれます)。これが酸化酵素の働きで空気中の酸素と結合し、褐色の物質ができるとされています。成分としてのくわしい説明はさつまいものポリフェノールの記事をご覧ください。
見え方には幅があると言われています。断面全体がぼんやりと黒ずむこともあれば、細かい点が散らばったように見えることもあります。
ポイントは「切ってから時間が経つにつれて色が変わっていく」ことです。包丁を入れた瞬間はきれいだったのに、置いておくうちに黒っぽくなってきた場合は、この変色である可能性が高いと考えられます。逆に、切ったその瞬間からすでに黒い斑点があった場合は、別の原因を考える必要があります。
水にさらす・すぐ加熱すると防げます
この変色は、あらかじめ防ぐことができます。同センターは、水にさらして直接空気に触れないようにする方法と、切ったあとすばやく調理して熱をかけ、酵素の働きをなくす方法を挙げています。
さつまいもを切ったあとに水にさらすのは、この変色を防ぐためでもあります。ただし長時間さらしすぎると、風味や水に溶ける成分が失われますので、短時間にとどめるのがよいと言われています。理由のくわしい説明はさつまいもを水にさらすのはなぜ?でご紹介しています。
③内部の黒っぽい斑点・褐変|低温障害
切った時点ですでに、断面の内側や皮のすぐ下が褐色〜黒っぽくなっていることがあります。原因のひとつとして考えられるのが、低温障害(さつまいもを冷やしすぎたときに起こる傷み)です。さつまいもは低温に弱い野菜で、冷蔵庫での保存が向かない理由もここにあります。この章では、切っていない生のさつまいもを対象に、症状と温度の目安を整理します(切ったものや加熱したものは、保存の考え方が変わります)。
冷やしすぎたさつまいもに起こること
さつまいもは中南米を原産とする作物で、寒さが苦手です。冷たい場所に置かれ続けると、内部の組織が傷みます。
低温障害が起きたさつまいもには、内部が褐色〜黒っぽく変色する、腐敗が進みやすくなる、風味が落ちる、といった変化が現れると言われています。「冷蔵庫に入れておいたら、味が変わってしまった」という場合、この低温障害が関係していることがあります。
何℃からなのか、資料によって幅があります
ここは、他のサイトと数字が食い違いやすいところです。実際に、5℃以下・10℃以下・15℃以下と、記事によってばらばらの数値が書かれています。なぜそうなるのかを含めてご説明します。
一次情報にあたると、国内の資料では、日本いも類研究会『さつまいもMiNi白書』が9℃以下で冷害を受けるとしています。一方、海外の収穫後科学の資料では、カリフォルニア大学デービス校の収穫後研究センターが12.5℃以下で低温障害に非常に敏感としており、3℃以上の開きがあります。
この差には、品種の違い、低温にさらされた期間、何をもって障害とみなすか、そして長期貯蔵を前提とするかどうかといった条件の違いが関係していると考えられます。そのため、家庭向けに「○℃以下でアウト」と一本の線を引くことはできません。
実用的には、貯蔵に適した温度を目標に置き、下限を別に意識するのが分かりやすいと思います。日本いも類研究会は、さつまいもの貯蔵適温を13〜15℃・湿度80〜90%としています。この温度帯を目標にするのが基本です。そのうえで下限については、産地のJAが「10℃以下の低温にならないように保湿管理すること」を長持ちのポイントとして挙げています(JAなめがた甘藷部会連絡会)。
ただし、10℃を超えていれば低温障害が起こらない、という境界ではありません。低温障害は、温度だけでなく、その温度に置かれた時間の長さにも関係します。10℃はあくまで「これ以上は下げたくない」という目安であって、安全圏の入口ではないとお考えください。
なお、冷蔵庫の野菜室はおおむね3〜8℃です。これは上記のどの目安も下回っており、入れている間はずっと低温障害の起こりうる温度帯にあることになります。冷蔵室よりましというだけで、安全な保存場所ではありません。
加熱しても硬い部分が残ることがあります
低温障害が起きたさつまいもには、食感にも変化が現れます。
しっかり加熱したはずなのに、一部だけ硬いまま残ることがあります。十分に加熱しても硬さが残る原因のひとつとして、低温障害が知られています。味が落ちたり、苦味を感じたりすることもあると言われています。
低温障害そのものは病気ではありませんが、傷みが進みやすい状態であることは確かです。また、後半でご説明する病気による黒い斑点と、家庭で見分けるのは簡単ではありません。冷蔵庫での保存についてはさつまいもは冷蔵庫で保存しても大丈夫?でくわしく取り上げています。
④黒斑病(こくはんびょう)による病斑
4つ目は、カビによる病気です。ここまでの3つとは安全上の意味合いが大きく異なり、さつまいもの黒い斑点を考えるうえでもっとも注意が必要な原因です。一般向けの記事ではあまり取り上げられませんが、正確に知っておく価値のある内容ですので、順にご説明します。
黒斑病とは|病斑の見え方と広がり方
黒斑病は、Ceratocystis fimbriata というカビによって起こる病気です。
茨城県の病害虫防除所資料によれば、塊根に出る病斑は、発病の初期には「緑を帯びた黒褐色」をしているとされています。病気が進むと黒がより強くなり、「表面がくぼんだ円形となって、中央部にかびを生じる」と説明されています。
伝染の経路は複数あります。同資料は、病気にかかった種いもから育てた苗を通じて伝染するほか、土壌を通じて伝染するとしています。土壌からの場合は、ハリガネムシ(コメツキムシの幼虫)やコガネムシ類の幼虫などの土壌害虫、あるいはネズミによる食害の痕から感染するとされます。そして貯蔵中に発病することが多いと説明されています。
つまり、買った時点では気づかなくても、家庭で保存している間に症状が出てくる場合があるということです。とはいえ、「この見た目なら黒斑病」と家庭で言い当てるための基準として使えるほど、症状は分かりやすくありません。
苦味と特有のにおいをもつイポメアマロン
黒斑病が問題になるのは、見た目の悪さだけが理由ではありません。
農畜産業振興機構の報告書によれば、さつまいもの塊根は「黒斑病などの病原菌の感染やアリモドキゾウムシなど害虫の食害、傷害により、イポメアマロンなどの抗菌性フラノセスキテルペン類を作り出す」とされています。さつまいもが自らを守るために作る成分です。しかし、家畜が飼料として摂取すると中毒を引き起こすことが知られており、同報告書は2016年に鹿児島県で黒毛和牛が中毒死した事例(2020年報告)にも触れています。
同報告書は、イポメアマロンが特有のにおいと苦味をもつため、人が口にすればすぐに味やにおいの異常に気づく、とも述べています。ただし、これを「人なら気づけるから大丈夫」と読むのは危険です。次の項目でご説明するとおり、どこまで影響が及んでいるかを見た目から決めることはできないためです。芽が出たさつまいもの扱いについてはさつまいもの芽は食べられる?でも同じ観点から取り上げています。
加熱も切除も、安全のための対策にはなりません
ここが、この記事でもっともお伝えしたい点です。結論から申し上げると、病気が疑われるさつまいもについては、加熱も、黒い部分を切り取ることも、安全のための対策にはなりません。
まず切除についてです。イポメアマロンは、さつまいもが傷や感染に反応して作り出す成分です。島佳久ほか「サツマイモの傷害と保蔵条件による品質変化, 特にイポメアマロンの生成」(熱帯農業 第40巻第4号・1996年)は、除菌した塊根に擦り傷をつけ、温度と湿度を組み合わせて保存する実験を行っています。その結果、相対湿度85〜95%の高湿条件では13℃・25℃のいずれでもイポメアマロンは検出されず、相対湿度60〜70%の低湿条件では傷害側で確認され、25℃で生成が著しく増えたと報告されています。傷をつけていない健全な塊根では、どちらの条件でも生成は認められませんでした。
つまり、どれだけ作られるかは、傷の有無だけでなく、そのあとどんな温度・湿度に置かれたかによって変わります。買ってきたさつまいもがどんな環境を通ってきたかを、家庭で知ることはできません。
なお、この研究は機械的な傷をつけた実験であり、黒斑病に感染させた実験でも、病斑を切り取ったあとの安全性を調べた実験でもありません。病斑の外側にどこまで成分が及ぶのかを示した資料は、今回の調査では確認できませんでした。つまり、「ここまで切り落とせば大丈夫」という線を引くための根拠がない、ということです。
さらに、黒斑病の病斑は表面に見えている範囲だけにとどまらず、貯蔵中に進行していきます(茨城県)。買った時点で小さく見えた黒い部分が、そのまま小さいとは限らないということです。
加熱についても同じです。加熱による成分の変化を扱った研究はありますが、今回の調査では原典を確認できませんでした。加熱によって減る成分があるかどうかにかかわらず、家庭で安全かどうかを確かめる方法がない以上、加熱を安全のための手段として当てにすることはできません。
これらを合わせると、「黒い部分を取り除けば食べられます」という説明には根拠がありません。表面がくぼんだ円形の病斑があるもの、苦味や異臭があるものは、食べないでください。
迷ったときの考え方|「サインがなければ安全」ではありません
ここまで、さつまいもの黒い斑点の原因を4つに分けてご説明してきました。最後に、実際に手元のさつまいもをどう扱うかという話に移ります。原因の知識だけでは判断が完結しないこと、そのうえで何を手がかりにすればよいかを整理します。
見た目とにおいだけでは判断しきれません
まず押さえておきたいのは、「見た目とにおいが正常=安全」ではない、ということです。
4つの原因は、初期の段階では見た目が似ていることがあります。とくに、低温障害による内部の褐変と、病気による病斑の初期は、家庭で確実に区別できるものではありません。
加えて、食中毒の原因となる細菌の多くは、見た目やにおいをほとんど変えないことがあります。「変なにおいはしないから大丈夫」という判断は、根拠として弱いとお考えください。加熱だけでは防げないリスクについては焼き芋の食中毒|見分け方・保存法・注意点でくわしくご説明しています。
保存の履歴から考える
そこでおすすめしたいのが、見た目ではなく保存の履歴から考える方法です。そのさつまいもが、どこで、どれくらいの間、どんな状態で置かれていたかを思い出してみてください。
- 冷蔵庫(とくに冷蔵室)に入れていた期間があるか
- 買ってから何日、あるいは何週間が経っているか
- 夏場の高温多湿な場所や、暖房の効いた部屋に置いていなかったか
- 買ったときから傷やくぼみ、打ち身のような箇所がなかったか
- 保存中に、黒い部分が広がってきていないか
これらに心当たりがある場合は、見た目に大きな異常がなくても、慎重に扱う理由があります。逆に、涼しい場所で短期間だけ保存したさつまいもであれば、リスクは相対的に低いと考えられます。出回る時期についてはさつまいもの旬はいつ?を、加熱したあとの保存については焼き芋の日持ちはどれくらい?をご参照ください。
食べない方がよい状態(ただし、これで全部ではありません)
次のような状態のものは、食べないでください。
- 表面がくぼんだ円形の黒い斑点がある
- カビが生えている
- 口に入れたときに苦味がある、異臭がする
- 押すと柔らかい、ぬめりがある、汁が出ている
- 黒っぽい変色が内部の広い範囲に及んでいる
ただし、この一覧にあてはまらないことは、安全の証明にはなりません。上でご説明したとおり、初期の病斑は分かりにくく、細菌は見た目を変えないことがあります。この一覧は「これがあればやめる」ための目安であって、「これがなければ食べてよい」ためのものではありません。
判断に迷ったときは、食べないという選択をおすすめします。
黒くしないための保存と扱い方
さつまいもの黒い斑点は、保存の仕方と扱い方で、ある程度減らすことができます。とくに③の低温障害と④の病気は、温度と傷が大きく関わります。ここでも切っていない生のさつまいもを前提に、家庭でできることを3つに分けてご説明します。切ったものや加熱したあとのものは、保存の考え方が変わりますのでご注意ください。
温度は13〜15℃を目標に
まずは保存温度です。前述のとおり、日本いも類研究会はさつまいもの貯蔵適温を13〜15℃・湿度80〜90%としています。
家庭では、この温度帯に近い、風通しのよい冷暗所が目安になります。そのうえで、産地のJAが挙げている「10℃以下にしない」という下限も合わせて意識してください(JAなめがた甘藷部会連絡会)。目標温度と下限を分けて考えると、判断しやすくなります。
冬場に室温が下がりがちな環境では、新聞紙で包んだうえで段ボールや発泡スチロールの箱に入れ、室内に置くとよいでしょう。ただし日本いも類研究会は、「密閉すると多湿になって腐敗の原因になりますので注意が必要です」としています。ふたを閉め切らず、空気が通るようにしてください。
逆に、夏場など室温が高く適温に近い場所を確保できない場合は、やむを得ず冷蔵庫の野菜室を使うこともあります。これはあくまで一時的な避難先ですので、早めに使い切ってください。
傷をつけない・濡らさない
次に、扱い方です。さつまいもにとって、表皮は外からの菌を防ぐ大切な部分です。
保存前に水洗いをすると、表皮を傷つけやすくなります。また、濡れた状態は微生物が繁殖しやすくなります。土は軽く払う程度にとどめ、洗うのは調理の直前がよいと言われています。
また、④でご説明したとおり、病原菌は傷や食害の痕から侵入します。落としたりぶつけたりしないよう、やさしく扱うことが、結果として黒い斑点を減らすことにつながります。
切ったあとは早めに加熱する
最後に、調理のときの工夫です。
②の切り口の変色は、切ったあと空気に触れる時間が長いほど進みます。切ったら短時間だけ水にさらすか、すぐに加熱してしまうのがおすすめです。
なお、加熱したさつまいもを室温に長く置くのは避けてください。細菌が増える原因になります。食べきれない場合は、粗熱が取れたら冷蔵または冷凍で保存しましょう。
よくある質問
さつまいもの黒い斑点について、よく寄せられる質問をまとめました。これまでの内容と重なる部分もありますが、判断に迷いやすいポイントを中心にお答えします。
Q1. 黒い部分だけ切り取れば食べられますか?
原因によって答えが変わりますが、家庭で原因を確定することはできません。①の表面のシミや②の切り口の変色と思われる場合、その部分を取り除いて調理される方が多いと思います。ただし、④の病気が疑われる場合は、切り取ることが安全のための対策になりません。表面がくぼんだ円形の病斑があるとき、苦味や異臭があるとき、判断がつかないときは食べないでください。
Q2. 加熱したら緑や青緑になりました。黒とは違うものですか?
はい、別の現象です。ただし、2つの場合を分けて考える必要があります。
ひとつは、重曹(アルカリ性炭酸塩)を使ったお菓子づくりなどで起こる変色です。もうひとつは、フィルムで密封したり長時間水に浸けたりして、酸素の少ない状態に置かれた場合です。宮崎丈史ほか「嫌気的環境下のサツマイモに発生する加熱後の青緑変について」(日本包装学会誌 第2巻第2号・1993年/千葉県農業試験場)は、後者の条件で青緑変が起きたさつまいもについて「いずれも異味・異臭が認められ、変質の程度が甚だしいことをうかがわせた」と報告しています。
つまり、青緑色になったからといって、それだけで食べてよいとは判断できません。調理の材料による変色なのか、保存中に品質が落ちた結果なのかを分けて考えてください。なお同論文は、青緑変の反応の詳細や物質の構造は「いまだ明らかではない」としています。
Q3. 皮の黒いベタベタは洗えば落ちますか?
落ちにくい場合が多いです。これはヤラピンを含む乳液が黒く変化したもので、水洗いだけでは取れないことがあります。強くこすると表皮を傷つけ、かえって菌の侵入口を作ってしまいますので、無理に落とそうとしない方がよいでしょう。皮ごと食べるのが気になる場合は、その部分を厚めにむいてください。
Q4. 冷蔵庫に入れてしまったのですが、どうすればいいですか?
すぐに傷むわけではありませんが、低温障害の起こりうる温度帯に置かれていたことになります。長く置くほどリスクは高まりますので、早めに使い切ることをおすすめします。取り出して常温に戻しても、すでに受けた影響が元に戻るわけではありません。くわしくはさつまいもは冷蔵庫で保存しても大丈夫?をご覧ください。
Q5. 食べてみたら苦かったときは?
飲み込まずに口から出し、それ以上は食べないでください。残りのさつまいもも食べない方が安全です。苦味は、さつまいもが傷害や感染に反応して作る成分によるものである可能性があります。体調に不安がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
まとめ
さつまいもの黒い斑点は、原因がひとつではありません。最後に、要点を整理します。
- ①表面や切り口の黒いシミは、ヤラピンを含む乳液が黒く変化したものです。「蜜」ではなく、甘さの目安にもなりません
- ②切ってしばらくして黒くなるのは、ポリフェノール(クロロゲン酸)が酸素と結びついて起こる変色です。水にさらす、すぐ加熱することで防げます
- ③切った時点で内部が褐色〜黒っぽいときは、低温障害の可能性があります。何℃からかは資料によって幅があり、切っていない生のさつまいもは目標13〜15℃・下限10℃と分けて考えるのが実用的です(10℃を超えれば安全、という境界ではありません)
- ④表面がくぼんだ円形の黒い斑点は、黒斑病による病斑の可能性があります。加熱も切除も、安全のための対策にはなりません(家庭で安全かどうかを確かめる方法がないため、手段として当てにできない、という意味です)
そして何より大切なのは、これら4つを家庭で確実に見分けることはできない、という前提です。「食べない方がよいサイン」がないことは、安全の証明にはなりません。見た目だけでなく、どこにどれくらい置いていたかという保存の履歴も合わせて考え、迷ったときは食べないという選択をしていただければと思います。
参考資料
本記事の作成にあたって参照した資料です。数値や仕組みの詳細は、それぞれの資料でご確認いただけます。
- 日本いも類研究会「Q さつまいもの保存方法を教えてください。」(貯蔵適温13〜15℃・湿度80〜90%)
- 日本いも類研究会『さつまいもMiNi白書』3) 栽培特性・条件(9℃以下で冷害)
- University of California, Davis「Sweet Potato」Postharvest Research and Extension Center(12.5℃以下で低温障害に敏感)
- JAなめがた甘藷部会連絡会「さつまいもの保存方法」(10℃以下にしない)
- 茨城県「サツマイモ-黒斑病」(病斑の見え方・伝染経路)
- 農畜産業振興機構「令和3年度畜産関係学術研究委託調査報告書」(イポメアマロンの生成と家畜中毒)
- 島佳久ほか「サツマイモの傷害と保蔵条件による品質変化, 特にイポメアマロンの生成」熱帯農業 第40巻第4号・1996年
- 宮崎丈史ほか「嫌気的環境下のサツマイモに発生する加熱後の青緑変について」日本包装学会誌 第2巻第2号・1993年
- コープこうべ商品検査センター「さつまいもを切断すると褐変する」
- コープこうべ商品検査センター「さつまいもの皮の表面に黒いものが付いています。」

