さつまいもとは?

はじめに

さつまいもの正体

さつまいも(薩摩芋)とは、熱帯アメリカ原産のヒルガオ科の根菜で、ホクホクと甘い食味が特徴の野菜です。

寒い季節になると、焼きいもの香ばしい匂いに心惹かれる方も多いのではないでしょうか。

実はこのさつまいも、日本に伝わったのは江戸時代のことです。

この記事では、さつまいもがどのように日本に伝来し普及したのか、そして品種ごとの特徴や主な産地について、わかりやすくご説明したいと思います。

日本への伝来と「さつまいも」の名前の由来

日本への伝来と「さつまいも」の名前の由来

さつまいも(カンショ)は中南米原産の作物で、日本には17世紀ごろに中国(明)から琉球王国(現在の沖縄県)へ伝わり、その後琉球を経て薩摩(現在の鹿児島県)へ持ち込まれたとされています。(※薩摩への伝来年は1698年に栽培が始まったとする説や、前田利右衛門が18世紀に持ち帰ったという伝承など、複数の説があります。)

そのため江戸では「薩摩から来た芋」という意味合いで「薩摩芋(さつまいも)」と呼ばれるようになりました。

他にも、中国から伝わったことにちなみ「唐芋(からいも)」、中国名に由来する「甘藷(かんしょ)」といった呼び名もあります。

沖縄の野國總管(のぐにそうかん)

日本にさつまいもを最初にもたらした人物として、沖縄の野國總管(のぐにそうかん)という役人の名が伝わります。

記録によれば1605年(慶長10年)、野國總管が当時琉球から中国(明・福建省)へ渡航し、持ち帰った甘藷(かんしょ=さつまいも)を沖縄本島で栽培したのが始まりとされています。

彼が故郷の野國村(現・嘉手納町野国地区)で広めた甘藷は、たちまち琉球全土の村々に広がり、さらに薩摩藩を経由して日本全国に伝播しました。

さつまいもは痩せた土地でも育つため、人々を飢饉から救う作物となり、日本中に恩恵をもたらしたのです。

薩摩藩では特に盛んに栽培され、鹿児島県南部の坊ノ津(ぼうのつ、現在の南さつま市坊津町)で初めて栽培が成功した記録もあります。

こうして江戸時代初期には、南九州を中心にさつまいもの栽培が始まっていきました。

江戸時代での普及と飢饉対策での活躍

江戸時代での普及と飢饉対策での活躍

さつまいもが全国的に重要視されるようになったきっかけは、江戸時代中期の享保の大飢饉(1732~1733年)でした。

この飢饉は西日本一帯の稲作が深刻な虫害に見舞われたことで発生し、多くの地域で飢饉による被害が出ました。

しかし、薩摩ではさつまいもが救荒作物として栽培されていたため、享保の飢饉などの際に主食不足を補う作物として役立ったとされています。

凶作の年でも収穫できる救荒作物として、さつまいもの有用性が注目されたのです。

この事態を受け、当時の八代将軍・徳川吉宗はさつまいもの栽培を奨励する政策をとりました。

吉宗に進言したのは、蘭学者の青木昆陽(あおきこんよう)という人物です。

青木昆陽は江戸日本橋の生まれで、博学多才な人物でした。

享保の飢饉(1732年)を背景に、青木昆陽は救荒作物としてのさつまいもに着目し、栽培法などをまとめた『蕃藷考』を著しました。

『蕃藷考』は享保20年(1735年)に完成(刊行)したとされ、幕府の殖産興業策の流れの中で、さつまいもの普及に影響を与えたとされています。

その中で昆陽は甘藷について「痩せた土地でも容易に栽培できる」「種芋から多くの芋を収穫できる」「穀物の代用になる主食となりうる」「お酒(焼酎)も作れる」等、その有用性を詳しく説いています。

この建言により、徳川吉宗は直ちに幕府としてさつまいもの試作栽培を命じました。

命を受けた青木昆陽は薩摩藩から種芋1500個を取り寄せ、江戸の小石川御薬園(現在の東京大学附属小石川植物園)や、千葉の幕張・九十九里などで試験栽培を開始します。

最初の試みでは江戸の寒さで種芋が霜に当たり大半が腐る失敗もありましたが、昆陽は諦めず工夫を重ねました。

享保20年(1735年)11月、ついに小石川御薬園で約4,400個もの甘藷の収穫に成功します。(参考:沖縄県嘉手納町ホームページ『野國總管甘藷伝来400年祭』)

収穫されたさつまいもは各地への種芋として配布され、以降、日本各地で本格的な栽培が広がっていきました。

青木昆陽の功績により、さつまいもは江戸時代を通じて「救荒作物」として定着します。

昆陽自身も人々から「甘藷先生(かんしょせんせい)」と呼ばれ尊敬されるようになり、彼の墓が現在も東京目黒に残っているほどです。

栗(九里=くり)より(四里)うまい十三里(九里+四里=十三里)

また、江戸に近い川越(埼玉県)は良質なさつまいもの産地となり、江戸から川越までの距離「十三里」にちなみ、川越産の焼きいもは「十三里」とも呼ばれました。当時は「栗(九里=くり)より(四里)うまい十三里(九里+四里=十三里)」という洒落交じりの宣伝文句で焼きいもが売られたそうです。

このように、さつまいもは食味の良さから庶民の食生活にも浸透し、文化的にも親しまれていったのです。

その後、明治以降もさつまいもは日本の食を支える重要な作物であり続けました。

第二次世界大戦中の食糧難の時代には、主食代用や栄養源として人々の命を繋ぎ、戦後には品種改良が進められていきます。

特に九州地方では、さつまいもから作る焼酎(芋焼酎)が名産となり、鹿児島県などで産業的にも重視されるようになりました。

こうした歴史を経て現代では、さつまいもは栄養価が高いヘルシーな食品としても注目されるようになり、おやつの焼きいもや大学いも、スイートポテトなど幅広く愛されています。

現代における主な品種と産地

現代における主な品種と産地

江戸時代から現代に至るまで、各地で様々なさつまいもの品種が育成されてきました。

品種によって甘さや食感、用途が異なり、地域ごとに独自のブランド芋も存在します。

まず、現在日本でもっとも作付面積が広い品種は、スーパーなどでよく見かける食用(青果用)品種として現在人気No.1の紅はるかです。

紅はるかは令和4年(2022年)の全作付面積の21.9%を占め、年々生産量を伸ばしている新しい品種で、しっとり蜜のような甘さが特長です。

コガネセンガン

次に作付面積が広いのは、鹿児島県で焼酎原料として栽培されているコガネセンガンという品種です。(参考:農林水産省『令和6年度いも・でん粉に関する資料』)

コガネセンガンは白っぽい見た目で一般の青果市場ではあまり見かけませんが、国内のさつまいも作付面積の20.5%を占めています。

次いで、関東で昔から親しまれてきたベニアズマ(紅あずま)も依然根強い人気で作付全体の9.2%ほどを占めます。

こうした主要品種以外にも、戦後に開発された高系14号という品種から各地で派生したブランド芋が数多くあります。

高系14号は1945年に育成された代表的な品種で、西日本を中心に広く普及しました。

貯蔵性が高く、焼き芋や加工用にも幅広く使われます。

高系14号

各地で独自に選抜・改良され、徳島県の「鳴門金時宮崎県の「宮崎紅」鹿児島県の「べにさつま高知県の「土佐紅」など産地ごとのオリジナル品種が生まれています。

例えば鳴門金時は徳島県鳴門市の砂地で甘みを蓄えたホクホク系のさつまいもで、西日本を代表するブランド芋の一つです。

安納いも(安納芋)」は、種子島の安納地区に由来するさつまいものブランドとして知られ、代表的な登録品種として「安納紅」「安納こがね」(1998年に品種登録)があります。

ねっとりした食感と強い甘みが特徴で、焼き芋などに向きます。

最近ではシルクスイートという新品種も登場し、その名の通り絹のように滑らかな食感で人気上昇中です。

それでは、日本の主なさつまいも品種とその産地・特徴を以下の表にまとめてみましょう。

品種名主な産地特徴(食感・用途など)
紅はるか九州全域(特に鹿児島)、関東(茨城・千葉 など)皮は赤紫で中身は濃い黄色。しっとり系の食感で蜜のような強い甘さ。近年登場し急速に普及。焼きいもにすると糖度が非常に高くなるため人気。名前の由来は「他の芋よりはるかに美味しい」から。
紅あずま関東地方(茨城県、千葉県、埼玉県 など)ホクホク系の食感で甘みもしっかり。昭和後期に普及し、関東を中心に東日本で最も多く栽培されてきた代表品種。焼きいもや天ぷらなど幅広く利用され、現在も全国的に親しまれる。
鳴門金時徳島県(鳴門市周辺の砂地畑)高系14号系統から派生した西日本を代表するブランド芋。鮮やかな紅色の皮と淡黄の果肉を持ち、ホクホクとした食感。上品な甘さで和菓子材料にも利用される。名前は産地の鳴門に由来。
安納芋鹿児島県(種子島全域)種子島の在来種から選抜されたブランド芋。ねっとり系の食感で非常に甘く、焼くとオレンジ色の蜜が染み出すほど。糖度の高さで知られ、スイーツや焼き芋に最適。近年の熟成焼き芋ブームの火付け役。
シルクスイート茨城県・宮崎県 ほか全国各地2013年に出願され、2018年に品種登録された新鋭品種。水分が多く滑らかな舌触り(シルクのような食感)になるのが特徴。収穫直後はややホクホク感もあり、貯蔵熟成でねっとり甘くなる。焼きいも用として人気上昇中。
パープル系品種
(例:沖縄紅芋、アヤムラサキなど)
沖縄県、鹿児島県(奄美群島)、宮崎県 など果肉が鮮やかな紫色になる品種群。ポリフェノールの一種アントシアニンを豊富に含み健康志向で注目。食感はホクホク系で甘さ控えめのものが多く、菓子・芋ようかんなど加工食品にも利用。沖縄の紅芋タルトが有名。
コガネセンガン鹿児島県、宮崎県焼酎原料やでんぷん原料として使われる工業用品種。皮も中身も白っぽく、一見ジャガイモのような見た目。非常に収量が多く栽培しやすいため九州南部で大規模生産。鹿児島の芋焼酎では主力原料として知られる。

※上記のほか、高系14号系統から派生した宮崎紅(宮崎)や土佐紅(高知)など、各地で多彩な品種が栽培されています。

主な産地と生産量シェア

品種と並んで気になるのが、どの地域でさつまいもが多く作られているかという点でしょう。

現在、日本でさつまいもの生産が盛んな主産地は九州南部と関東地方です。中でも鹿児島県茨城県が二大産地として知られます。

令和5年都道府県別さつまいも作付面積
農林水産省ホームページ『令和5年産かんしょの作付面積及び収穫量』より

収穫量は年によって変動しますが、農林水産省「令和5年産」の資料では、全国のかんしょ収穫量は715,800tで、上位は鹿児島県215,400t(30%)・茨城県202,000t(28%)・千葉県91,300t(13%)・宮崎県68,900t(10%)となっています。

火山灰土のシラス台地が広がる鹿児島では、水持ちの悪い土壌に適した作物としてさつまいもの栽培が古くから奨励されてきました。

鹿児島では前述のコガネセンガンのほか、でんぷん原料用のシロユタカ、特産の安納芋など用途に応じた品種栽培が盛んなのも特徴です。

次いで茨城県は全国シェア約28%と第2位の産地で、年間20万トンほどを生産します。

関東ローム層の火山灰土や温暖な海洋性気候に恵まれ、さつまいもの栽培に適した地域です。

茨城県では紅あずまが主力品種で、近年は紅はるかの作付も増えています。

特に県南部から千葉県にかけては関東有数のさつまいも産地帯となっており、秋には収穫されたさつまいもを貯蔵・熟成させて甘みを引き出す蔵出し焼きいもも盛んです。

第3位の千葉県も全国シェア約13%を占める産地で、約9万トンを生産します。

千葉県では茨城県に隣接する香取・旭地域などで盛んに栽培されており、品種は茨城同様に紅あずまが中心、次いで紅はるかが栽培されています。

九州では鹿児島以外に宮崎県が第4位の産地で全国シェア約10%(約7万トン)を占めます。

宮崎県も温暖な気候を活かして紅はるかなど青果用からコガネセンガンまで幅広い品種を栽培しています。

このように、上位4県(鹿児島・茨城・千葉・宮崎)で国内生産量の約8割近くを占めており、地域が偏在しているのもさつまいもの特徴です。

まとめ

さつまいもは日本に伝来して以降、その歴史の中で幾度となく人々の命と暮らしを支えてきました。

琉球から薩摩へと渡った一本の芋づるが全国に広まり、江戸時代には青木昆陽の尽力で飢饉から人々を救う救世主となりました。

その後も各地で改良が重ねられ、多様な品種が生み出されるとともに、鹿児島や茨城をはじめとする主産地で受け継がれています。

現在では、ほくほく甘い焼きいもやスイーツ、あるいは郷土の芋焼酎に姿を変えて、さつまいもは日本の食文化に深く根付いています。

ほおばったさつまいもの甘さの裏には、このような長い物語と生産者たちの努力があるのです。

ぜひ秋冬には各地のブランド芋を味わってみて、それぞれの風土が育んだ風味の違いを楽しんでみてください。

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