焼き芋のレジスタントスターチとは?

近年、焼き芋を冷やして食べる「冷やし焼き芋」が健康志向の人々の間で注目を集めています。

背景には、焼いたさつまいもを冷ますことで増えるとされる「レジスタントスターチ」という成分が体に良い影響をもたらすという情報があります。

本記事では、レジスタントスターチとは何か、冷やし焼き芋でどのように増えるのか、そしてその健康効果や上手な取り入れ方について、専門家の視点からやさしく解説します。

「レジスタントスターチ」って何?

「レジスタントスターチ」って何?

レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)とは、その名のとおり「消化されにくいでんぷん」のことです。

通常、でんぷん質は小腸で消化酵素によって分解・吸収されます。

レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)は、消化されにくく大腸まで届くという点で食物繊維に似た働きをする成分です。

便のかさを増やす点では不溶性食物繊維に、腸内細菌のエサになって短鎖脂肪酸をつくる点では水溶性(発酵性)食物繊維に近い性質を持つため、一般向けには「第3の食物繊維」や「ハイパー食物繊維」と呼ばれることもあります(ただし、いずれも正式な学術用語ではありません)。

レジスタントスターチにはいくつか種類がありますが、特に注目したいのは加熱後の冷却で生成するタイプです。

でんぷんは加熱で一度糊化(アルファ化)しますが、これを冷ますと構造が再編成され、一部が消化されにくい形に戻ります。

これがレジスタントスターチ(タイプ3:レトロゲル化でんぷん)です。

例えば炊いたご飯を冷ますと生まれる難消化性でんぷんがそれで、昔の人は冷えた飯を食べることで知らず知らず腸に良い効果を得ていたとも言われます。

このようにレジスタントスターチは、体内で消化されずに大腸まで届いて腸内細菌のエサになるという点で食物繊維に近い機能を持ちます。

後述するように、腸内環境の改善や血糖値のコントロールなど、様々な健康効果が期待できる成分なのです。

焼き芋を冷やすとレジスタントスターチが増える?

焼き芋を冷やすとレジスタントスターチが増える?

さつまいも(サツマイモ)はもともと食物繊維を多く含む食材として知られています。(※さつまいもの食物繊維に関しましては『さつまいもの食物繊維を徹底解説!水溶性・不溶性のバランスと腸活効果』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

特に焼き芋(焼いたさつまいも)は、生のさつまいもよりも食物繊維量が増えることが報告されています。

文部科学省の「日本食品標準成分表2015年版」によれば、生のさつまいも(可食部100g中)の総食物繊維は約2.2gなのに対し、焼き芋(100g中)では約3.5gに増加しています。

水溶性・不溶性の内訳も、生では0.6gと1.6g、焼き芋では1.1gと2.4gとどちらも増えています。

これは調理加熱によって一部のでんぷんが難消化性成分に変化し、食物繊維として計測される量が増えたためと考えられています。

実際、研究者も「加熱調理で増加した食物繊維量はレジスタントスターチの生成によるものではないか」と推察しています。

では、焼き芋に含まれるレジスタントスターチ量はどの程度なのでしょうか?

興味深いデータとして、宮城教育大学の亀井教授らの研究では、調理法の違いによるさつまいものレジスタントスターチ含有率を測定しています。

その結果、生のさつまいもではレジスタントスターチ含有率が約12.0%と最も高く、加熱後では蒸しが約10.2%茹で(ゆで)が約8.8%電子レンジ加熱では約5.2%と報告されました。(参考:独立行政法人農畜産業振興機構ホームページ「かんしょの加熱調理法の違いによるレジスタントスターチ量の変化」)

加熱により一度でんぷんが糊化するとレジスタントスターチは減少しますが、加熱方法によって減少の程度が異なることが分かります。

水分の少ない調理(蒸し加熱など)の方がレジスタントスターチの残存量が多く、逆に水中で茹でる調理では分解が進みやすい傾向が見られました。

電子レンジ加熱は内部まで均一に加熱が進むためかレジスタントスターチの量が特に少なくなっています。

さらに、加熱後に冷やすことでレジスタントスターチが増えることも確認されています。(参考:J-Stageホームページ

焼き芋を用いた小規模な試験では、焼いた直後にはほとんど検出されなかったレジスタントスターチが、-20℃で一定期間冷凍保存した後には乾物100g中で約1.5g検出されたという報告もあります。

ただし、品種や加熱条件・保存条件、測定法によって数値は大きく変わること、そして実際の焼き芋100g中に含まれるレジスタントスターチ量は1g未満と推定されることから、「冷凍すると必ずこの量になる」と断定できるわけではありません。

レジスタントスターチのヒト試験では1日15〜30g程度を摂取する研究が多いことを考えると、冷やし焼き芋だけで十分な量を賄うというより、「腸にやさしい+α」のイメージで取り入れるのが現実的です。

さつまいも(生と焼き)の栄養成分比較(100gあたり)

項目生のさつまいも(皮むき)焼き芋(皮むき)
炭水化物(g)31.939.0
総食物繊維(g)2.23.5
├ 水溶性(g)0.61.1
└ 不溶性(g)1.62.4
独立行政法人農畜産業振興機構ホームページ「かんしょの加熱調理法の違いによるレジスタントスターチ量の変化

上記のとおり、焼き芋では水分が減るため100gあたりの栄養素濃度が高まり、さらに加熱によってでんぷんの一部がレジスタントスターチなどの難消化性成分へ変化することで、分析上の総食物繊維量が増えると考えられています。

(※増加分の多くがレジスタントスターチによる可能性が指摘されていますが、水分量の変化など他の要因も関わるため、「食物繊維がそのままレジスタントスターチに置き換わった」とまでは言えません。)

焼きたてのさつまいもを一度冷まし、冷蔵保存してから食べる――これが「冷やし焼き芋」が健康に良いと言われる科学的な理由なのです。

レジスタントスターチの期待できる健康効果

消化されずに大腸まで届くレジスタントスターチは、体内で様々な有益な働きをします。

【効果1】腸内環境の改善

腸内環境の改善

大腸に届いたレジスタントスターチは腸内細菌(善玉菌)のエサとなり、発酵分解されて酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸を産生します。

特に酪酸は大腸粘膜の主要なエネルギー源であり、腸粘膜の健康維持や大腸がん細胞の抑制に寄与することが報告されています。

レジスタントスターチは発酵性食物繊維の一種として腸の奥(大腸)で善玉菌を増やし、腸内を弱酸性に保って悪玉菌の増殖を抑える働きもあります。

その結果、便通の改善(便秘解消)にもつながります。

実際、さつまいもにはもともと不溶性・水溶性両方の食物繊維が豊富なうえ、ヤラピンという独自成分も含まれ、これらが相まって腸のぜん動運動を促進し排便を助けてくれます。(※ヤラピンに関しましては『「ヤラピン」とは?|サツマイモ特有の成分を分かりやすく解説』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

ヤラピンとはサツマイモを切ったときに出る白い樹脂状の液体に含まれる成分で、古くから緩下剤として利用され腸の動きを活発にし便を柔らかくする作用があることが知られています。

さつまいも特有のヤラピンは熱に強く調理で失われないため、焼き芋でもその効果を享受できます。

食物繊維(不溶性・水溶性)+ヤラピン+レジスタントスターチの三位一体効果で、焼き芋はお腹の調子を整える強い味方になるのです。

【効果2】血糖値の上昇抑制

血糖値の上昇抑制

レジスタントスターチは小腸で消化・吸収されないため、食事と一緒に摂ると食後血糖値の急激な上昇を緩やかにする効果があります。

実際に健常成人を対象とした試験でも、レジスタントスターチ摂取により食後血糖値の上昇が穏やかになり満腹感が持続することが確認されています。

レジスタントスターチは小腸でほとんど消化されないため、同じ量の炭水化物でも食後血糖値の上昇をいくらか穏やかにする可能性があります。

実際に、レジスタントスターチを多く含む食品やサプリメントを摂取すると、食後血糖値やインスリンの上昇が抑えられたという報告もあります。

焼き芋も、冷やしてレジスタントスターチを増やすことで血糖値の上がり方がややマイルドになると考えられますが、さつまいも自体の糖質量は変わらないため、「食べれば糖尿病を予防できる」というものではありません。

糖尿病のある方や血糖コントロールが必要な方は、主治医・管理栄養士と相談のうえ、総糖質量や食べる量・タイミングを含めて調整することが大切です。

【効果3】コレステロール・中性脂肪低下

コレステロール・中性脂肪低下

レジスタントスターチの継続摂取は、血中の悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪を低減させる報告もあります。

腸内で発酵産生される短鎖脂肪酸(酪酸など)が肝臓での脂質代謝に影響を与えることや、食物繊維様の働きでコレステロールの再吸収を抑えることが一因と考えられます。

焼き芋自体にもカリウムやビタミン類など生活習慣病予防に有用な栄養素が多く含まれますので、レジスタントスターチと合わせて総合的に生活習慣病リスクの低減が期待できます。

このように、レジスタントスターチは腸内環境の改善から血糖値・血中脂質の調整まで幅広い健康効果が期待される成分です。

さつまいもを焼き芋にして冷ますことで、美味しくこれらのメリットを享受できるのは嬉しいポイントと言えるでしょう。

注意点

これらの作用は、主に動物実験や一定期間のヒト介入試験で示された結果に基づくものであり、日常の食事レベルでどの程度の効果が得られるかについては、まだ研究途上の部分も多く残されています。
したがって、冷やし焼き芋は「腸にやさしい選択肢のひとつ」として取り入れつつも、生活習慣病の予防・改善には、全体の食事バランスや運動習慣などを含めたトータルな対策が重要です。

焼き芋でレジスタントスターチを摂るコツ

焼き芋でレジスタントスターチを摂るコツ

最後に、焼き芋から効果的にレジスタントスターチを摂取するためのポイントや注意点をまとめます。

【コツ1】冷やし焼き芋を取り入れる

前述のとおり、焼き芋は冷ますことでレジスタントスターチが増え、健康効果が高まります。

焼きたてのホクホクも美味しいですが、ぜひ一度冷やし焼き芋も試してみてください。

冷蔵庫で数時間~一晩しっかり冷やすとデンプンの再結晶化が進みます。

冷やした焼き芋はねっとりした甘さが増し、モチモチとした独特の食感になります。

夏場であればひんやりスイーツ感覚で、冬場でも常温に少し戻す程度にすれば甘みが際立って美味しくいただけます。

【コツ2】皮ごと食べる

焼き芋の皮には食物繊維やヤラピンなど有効成分が多く含まれています。

皮に近い部分の繊維質は便通改善に役立ちますし、ヤラピンは皮だけでなく芋全体に含まれますが特に皮付近に多いとも言われます。

幸い、近年のさつまいも(特に焼き芋用の品種)は皮まで柔らかく甘味があるものが多いです。

皮ごと食べることで「たっぷりの食物繊維+ヤラピン+増えたレジスタントスターチ」の全てを余すことなく摂取できるので一石三鳥です。

※市販の焼き芋を利用する場合は皮に土が付着していないか確認し、気になる場合は拭き取ってから食べましょう。

【コツ3】ゆっくりよく噛んで水分も一緒に摂る

冷やした焼き芋は甘みが凝縮していますが、冷たい分固さを感じる場合もあります。

ゆっくりよく噛むことで満足感も高まり、消化も助けます。

また噛むことで唾液が分泌され、澱粉の一部は口内で消化が始まりますが、レジスタントスターチはそのまま残って大腸へ届きます。

よく噛んでゆっくり食べれば、少量でも満腹感を得やすく食べ過ぎ防止にもつながります。

さつまいもは不溶性食物繊維も豊富なため、水分が不足するとかえって便が硬くなってしまうことがあります。

レジスタントスターチもしっかり腸まで届けるには適度な水分が必要です。

焼き芋を食べる際はコップ一杯の水やお茶なども一緒に摂るよう心がけましょう。

特に朝食やおやつ代わりに冷やし焼き芋を食べるときは、水分補給も忘れずにすることでよりスムーズなお通じが期待できます。

【コツ4】作り置き・食べ方の工夫

冷やし焼き芋は作り置きも可能です。例えばさつまいもをまとめて焼いておき、冷めたら1本ずつラップに包んで冷蔵または冷凍保存します。

冷凍した場合は食べる前日に冷蔵庫に移して自然解凍すれば、甘みはそのままにレジスタントスターチを蓄えた冷やし焼き芋になります。

そのままデザート感覚で食べても良いですし、輪切りにしてヨーグルトにトッピングしたり、サラダに加えるなどアレンジも楽しめます。

一度冷まして増えたレジスタントスターチは、その後に電子レンジなどで温め直しても、米飯の研究では大部分が保たれることが報告されています。

極端に長時間・高温で加熱すると一部が減少する可能性はありますが、通常の温め直しであれば、それほど神経質になる必要はないと考えられます。

食品衛生の面では、冷蔵・冷凍保存したでんぷん質食品は中心までしっかり再加熱した方が安全ですので、「レジスタントスターチを守るために生ぬるいまま食べる」よりも、安全性を優先しつつ、冷却工程で増えた分のレジスタントスターチを「おまけ」として活用するくらいのスタンスが現実的です。

冷やし焼き芋の注意点

冷やし焼き芋の注意点

冷やすことででんぷんの一部がレジスタントスターチに変わりますが、さつまいも全体の糖質量やカロリーが大きく減るわけではありません。

焼き芋は100gあたりのエネルギーがごはんと同程度の「主食級」の食品ですので、ダイエット中の方や血糖値が気になる方は、冷やし焼き芋であっても食べる量やタイミングを調整することが大切です。

レジスタントスターチや食物繊維が豊富な食品は、腸内細菌による発酵が活発になる分、人によってはお腹が張る・ガスが増えるなどの症状が出ることもあります。

初めて冷やし焼き芋を取り入れる場合は、少量から試してみて、体調に合わせて量を調整するようにしましょう。

過敏性腸症候群(IBS)など消化管の持病がある方は、無理に量を増やさず、必要に応じて医師や管理栄養士に相談してください。

まとめ

まとめ

焼き芋に含まれるレジスタントスターチについて、その概要から効果、摂り入れ方まで解説しました。

焼き芋は冷やすことでレジスタントスターチという難消化性のでんぷんが増え、腸内環境の改善や血糖値のコントロールなど様々な健康効果が期待できる食品です。

もともと食物繊維やヤラピンなど便通を助ける成分が豊富なさつまいもですが、冷やし焼き芋にすることでさらにパワーアップします。

日本人に昔から親しまれてきた焼き芋を、美味しさだけでなく健康面からも見直して、ぜひ日々の食生活に取り入れてみてください。

さつまいもスイーツ

焼き芋に最適なサツマイモ品種