
皆さんは「さつまいもを寝かせると甘くなる」「焼き方で甘さが変わる」という話を聞いたことがあるでしょうか。
実は、さつまいもの本当の甘さは、収穫後の保存(熟成)と調理中の科学反応(糊化と糖化)によって引き出されています。
収穫したてのさつまいもは意外と甘みが少なく、ホクホクと粉質で物足りない味ですが、上手に熟成させてからじっくり加熱すると、蜜があふれるようなねっとり甘い焼き芋に変身します。
本記事では、専門家の視点からさつまいもの「熟成」「糊化」「糖化」とは何かをやさしく解説して、甘さ向上のポイントをご紹介します。
「熟成(追熟)」とは – さつまいもの甘さを育む工程

熟成(追熟)とは、収穫後のさつまいもをしばらく貯蔵することで、内部のデンプンを糖にゆっくり分解させ、甘みの土台を築くプロセスです。
収穫直後のさつまいもはデンプンが主成分で遊離糖(スクロース=ショ糖、グルコース=ブドウ糖、フルクトース=果糖)はごくわずかのため、ほとんど甘みを感じません。
しかし貯蔵中に酵素の働きでデンプンが分解(糖化)し、ショ糖やブドウ糖などの糖分が徐々に増えていきます。
この現象こそが熟成による追熟効果で、いわば調理前に甘みを仕込むための下準備なのです。
熟成で甘みが増す仕組み

さつまいもは収穫後も呼吸を続ける生きた食材です。
その生命活動を支えるために、貯蔵中は自ら蓄えたデンプンを少しずつ分解してエネルギー(糖)を作り出します。
具体的には、さつまいも自身が持つ酵素によってデンプンが分解され、スクロース(ショ糖)やグルコース等の遊離糖が増加します。
貯蔵中は酵素の働きでデンプンが分解され、収穫直後から1~2か月ほどのあいだにショ糖などの遊離糖が特に大きく増加します。
その後もショ糖はゆっくり増えますが、全体としての「甘味度」は多くの品種でおよそ2~3か月で頭打ちになると報告されています。
このため、秋に収穫した芋を冬~年明けくらいまで熟成させると、糖度は収穫直後の2~3倍程度に高まり、食味も安定してきます。
例えば、農研機構の研究によれば、品種「高系14号」を13℃で貯蔵した場合、収穫後60日で芋に含まれるショ糖の量が急増し、120日後には収穫直後の約3倍に達したというデータがあります。(参考:「収穫後のサツマイモへの低温処理が糖含量ならびに貯蔵性に及ぼす影響」)
京都教育大学の研究でも、収穫直後6.6%だった生芋の糖度(可溶性糖量)が3か月後には13.7%に上昇しています。(参考:「サツマイモの貯蔵にともなう品質変化」)
つまり3~4か月の熟成で糖度が2~3倍にも高まるわけです。
このように熟成によって増えた糖分(主にスクロース)が、さつまいもの潜在的な甘みのベースを形成します。
さらに熟成は甘み以外の品質向上にも寄与します。
さらに熟成は甘み以外の品質向上にも寄与します。
貯蔵中は呼吸や蒸散によって水分が少しずつ失われる一方で、ショ糖などの水溶性糖が増え、細胞の状態も変化します。
その結果、加熱後の口当たりは収穫直後よりもしっとり・なめらかに感じられるようになると報告されています。
一方、あまり長期間貯蔵しすぎると、重量減少や発芽によってかえって品質が低下する場合もありますので注意が必要です。
熟成に適した条件 – 温度管理が決め手

熟成による糖化を最大限に進めるには、温度管理が非常に重要です。
さつまいもを甘くする熟成に適した温度は、貯蔵適温とされる13~15℃前後です。
この温度帯では低温障害や発芽・腐敗を防ぎつつ、デンプン分解酵素の働きが無理なく続くため、数週間~数か月かけてショ糖などの糖がゆっくり蓄積していきます。
酵素そのものの至適温度はこれより高温側ですが、貯蔵中は「安全に長く保ちながら少しずつ糖化を進める」という観点から、この温度が実用上の「スイートスポット」と考えられています。
低温障害に注意(10℃以下)
さつまいもは熱帯原産の植物で寒さに弱く、摂氏10度を下回る環境に長く置かれると細胞組織が損傷を受けてしまいます。
この低温障害が起きた芋は甘みが失われ、苦味が出たり、断面に黒い斑点が現れたりするほか、腐敗もしやすくなります。
家庭でも生芋を冷蔵庫(通常5℃前後)で保存してはいけないと言われるのはこのためです。
実際、家庭用冷蔵庫の温度2~6℃では低すぎて、長期間入れておくと芋が傷んでしまいます。
発芽に注意(16℃以上)
一方、貯蔵温度が16℃を超えて高くなりすぎると、芋は春が来たと勘違いして発芽を始めます。
芽を出す際には芋が蓄えたデンプンや糖分がエネルギー源として消費されてしまうため、発芽が進んださつまいもは味も栄養価も落ちてしまいます。
芽そのものにジャガイモのような毒はありませんが、品質劣化のサインには違いありません。
したがって、保存中に芋から芽が出てきたら甘み低下の兆候と考えましょう。
このように、13~15℃程度の穏やかな環境でさつまいもを休眠状態に保つことが、熟成による糖化をもっとも効率良く進めるコツです。
農家の貯蔵庫でも13℃前後に温度管理された環境で数ヶ月保存し、甘みを乗せてから出荷するのが一般的です。
実際、安納芋や紅はるかといった日本の高糖度サツマイモは人気が高い反面、収穫直後は甘味が弱いため、収穫後一定期間の貯蔵でデンプンの糖化を促してから出荷する必要があり、最も早い出荷でも9月下旬以降になるのが常でした。
生産現場ではこの課題に対し、収穫した紅はるかを低温貯蔵して食味向上を図る工夫が行われてきた経緯があります。
家庭でできる追熟の方法

ご家庭でも、市販のさつまいもを少し保存して追熟させることで甘みを増すことができます。
ポイントは先述の理想条件に近い環境を再現することです。以下に手軽にできる追熟方法をご紹介します。
- 洗わずに新聞紙&段ボールで保管:買ってきた生芋は土が付いたまま乾いた状態で保存しましょう。芋の表面の土は乾燥を防ぐ天然コーティングの役割があります。一本ずつ新聞紙でやさしく包み、通気性のある段ボール箱に重ならないよう並べて入れます。新聞紙は適度に湿度を保ちながら余分な水分を吸収してくれる調湿材として優秀です。
- ビニール袋は使用しない:ポリ袋に入れると通気性が悪く、芋の呼吸で出た水分がこもって高湿度になり、カビや腐敗の原因になります。必ず通気性の良い紙や段ボールを使いましょう。
- 置き場所の工夫:冬場であれば室温が13~15℃程度になる場所(例:暖房の効いていない部屋の隅や廊下、床下収納など)が適しています。寒冷地で室温が低すぎる場合は、比較的暖かいリビングの高い棚の上などに置くのも手です。逆に暖かい季節は直射日光の当たらない涼しい場所を選んでください。
- 時間をかける:十分に甘みを引き出すには数週間~2か月程度の追熟が理想です。堺市の栄養指導では、掘りたての芋は水分が多く焼きにくいため、新聞紙に包んで風通しの良い場所で1~2か月置き、糖が増えるのを待ちましょうと推奨しています。実際、秋に収穫された芋を年明けまで保存することで、糖度や旨みが大きく向上します。
以上のように、家庭でも少し工夫すればプロが行うような熟成効果を得ることができます。
「買ってすぐ調理せずに少し寝かせる」のが、美味しいさつまいもを味わうコツです。
さらに甘さを追求する「低温糖化」技術
通常は13~15℃程度での貯蔵(追熟)で十分甘くなりますが、より短期間で糖度を極限まで高めたい場合には、研究により見出された「低温糖化」という高度な手法も存在します。
これは、あえて通常より低い温度、概ね5~10℃程度で短期間貯蔵することでスクロース(ショ糖)の蓄積を促す方法です。
農研機構などの研究によれば、収穫後の芋を13℃より低い温度、例えば3℃や5℃で20日間保存すると、13℃で保存した場合に比べて芋中のショ糖含量が約3倍にも増加することが分かっています。
特に5℃環境での短期貯蔵は顕著にショ糖を増やすことが確認されました。
なぜ低温でショ糖が増えるかというと、通常芋の中ではスクロースを分解する酸性インベルターゼ(酸性転化酵素)が働いてスクロースを他の糖に変えてしまいますが、低温ではこの酵素の活性が低下し、スクロースの分解が抑制されるためと考えられています。
言い換えれば、低温環境下では作られたスクロースが消費されにくくどんどん蓄積するのです。
しかし3℃や5℃という環境はリスクも伴います。
先述の通り8℃以下では低温障害による腐敗が起きやすく、あまりに温度が低いとかえって芋が傷んでしまいます。
そこで研究では、腐敗を招かず甘味を向上させる最適解は10℃での貯蔵であると結論づけています。
実際、10℃で20日間貯蔵することで5℃の場合と同程度に甘味度が向上し、それでいて腐敗の発生は大幅に少なく抑えられました。
さらに興味深い点として、温度条件によって増える糖の種類が異なります。10℃で約1か月貯蔵すると果糖(フルクトース)の割合が著しく増加することが報告されています。
果糖はショ糖の約1.2~1.4倍の甘さを持つ糖であるため、果糖が増えるとより強烈な甘さを感じるさつまいもに仕上がります。
一方、5℃程度で貯蔵するとショ糖自体の生成が促進されますが、先述の通り低温障害のリスクが高まります。
以上のことから、生産者の現場では収穫後に一度適度な低温(約10℃)にさらす「低温糖化処理」が実用化されつつあります。
例えば茨城県では、8月収穫の早掘りサツマイモ(通常は甘みが少ない)を収穫後すぐに11~13℃前後の低温貯蔵庫で2~3週間保存し、糖度を上げてから出荷する技術が試みられています。(参考:「早掘りサツマイモの低温貯蔵による食味向上技術」)
このように温度を戦略的にコントロールすることで、従来より早い時期から甘いサツマイモを市場に提供することも可能になってきました。
もっとも、ここまで極端な低温処理は専門設備のある場合に限られます。
家庭で試すのは難しいですが、目安として「10℃前後で約2~4週間保存する」と覚えておくと良いでしょう。
冷蔵庫は温度が低すぎるのでNGですが、冬場の寒い納戸や車庫などで短期的に低温糖化を狙うことは可能かもしれません。
ただし腐敗には十分注意が必要です。
サツマイモ新品種『あまはづき』
サツマイモ新品種『あまはづき』は、この「低温糖化」の考え方を活かして開発された品種です。(参考:農研機構ホームページ『8月の収穫直後から甘いサツマイモ新品種「あまはづき」』)
低温で糊化するデンプンを持つため、収穫直後から糖度が高く、加熱調理の際に通常より低い温度からデンプンが糖に変化しやすい特徴があります。
その結果、貯蔵しなくても焼き芋にしたときの糖度が非常に高く、8月収穫でもねっとり甘い焼き芋が楽しめる画期的な品種です。
熟成を待たずに甘い品種の登場は、今後のサツマイモ流通に大きなインパクトを与えるでしょう。
「糊化」と「糖化」 – 調理で甘さを最大化するステップ
十分に熟成させた甘い生芋でも、加熱調理の仕方次第で甘さが大きく変わります。
焼き芋が劇的に甘くなる秘密は、調理中に起こる「糊化」と「糖化」という2段階の現象にあります。
ここでは、焼き芋のおいしさを決定づける糊化・糖化とは何か、その仕組みを見ていきましょう。
「糊化(こか)」– デンプンを酵素が働ける状態にする

さつまいもの主成分であるデンプンは、ブドウ糖分子が多数結合した長い鎖(いわば「糖のネックレス」)です。
生の状態ではデンプンの粒子は固く結晶化して詰まっており、甘みを感じません。
このままでは後述する酵素(β-アミラーゼ)の「ハサミ」が入り込めず、デンプンを糖に分解することができません。
そこでまず必要になるのが加熱の第一ステップ「糊化」です。
糊化とは、簡単に言えば「デンプンの糊状化」です。
さつまいもを加熱すると、芋内部の水分と共にデンプン粒子が温められます。
するとデンプンが水分を吸収して膨らみ、これまでの硬い結晶構造がほどけて柔らかい糊のような状態に変化します。
これが糊化です。
糊状になってデンプンの鎖がゆるんだことで、ようやく酵素が働ける下地が整います。
言い換えれば、糊化は甘さを引き出すための舞台準備にあたる重要な過程なのです。
この糊化が始まる温度(=デンプンの糊化開始温度)は品種によって異なりますが、一般的なサツマイモではおおむね65~75℃付近とされています。
実際、でんぷん学の専門家によると、多くの品種のデンプンは65~75℃以上で糊化することが知られています。
しかし近年開発された高糖度品種の中には、この糊化温度がより低いものがあることが分かってきました。
例えば品種「クイックスイート」はデンプンの糊化開始温度が約55℃と通常より20℃も低く、低温からデンプンが糊化する特性を持っています。(※クイックスイートに関しましては『クイックスイートの特徴と魅力|電子レンジ5分でも甘いサツマイモ品種』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい)
そのおかげで加熱時に早い段階(低温域)からβ-アミラーゼ酵素が働き始め、結果として大量の麦芽糖が生成され高い甘味を示すことが報告されています。
同じ高糖度品種の「こなみずき」も低い糊化温度と強い酵素活性を併せ持つため、甘くしっとりした「スイーツ焼き芋」になると言われます。(参考:『低温糊化性澱粉を有するサツマイモ品種「こなみずき」』)
このように品種によって糊化特性が異なる点も、甘い焼き芋づくりでは押さえておきたいポイントです。
「糖化」– 糊化デンプンを酵素で麦芽糖に分解

糊化によってデンプンが柔らかくほぐれると、いよいよ酵素が活躍できる状態になります。
さつまいもにはβ-アミラーゼというデンプン分解酵素が豊富に含まれており、この酵素が糊化デンプンの長い鎖をリズミカルにカットすることで麦芽糖(マルトース)と呼ばれる二糖を生成します。(※βアミラーゼに関しましては『さつまいもの甘さの秘密「β-アミラーゼ」を分かりやすく解説します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
麦芽糖は水飴の主成分としても知られる糖で、私たちが普段使う砂糖(ショ糖)の約3分の1程度の甘味度しかありませんが、コクのある優しい甘さが特徴です。
焼き芋のねっとり濃厚な甘さの正体はまさにこの麦芽糖なのです。
β-アミラーゼによるデンプン分解、すなわち糖化が進むほど麦芽糖がどんどん生成され、焼き芋の甘さは増していきます。
生のさつまいもには麦芽糖はほとんど含まれませんが、加熱後には主要な糖となり甘みの大部分を占めるまでになります。
実際、焼いたさつまいも中にはショ糖の約3倍量もの麦芽糖が含まれているとの分析もあり、甘味の大半はショ糖+麦芽糖で説明できると言われます。
つまり「熟成で増やしたショ糖」+「調理で作る麦芽糖」の相乗効果で、極上の甘さが生まれるわけです。
では、この糖化を最大限に引き出すにはどう調理すれば良いのでしょうか?
ポイントは酵素の働ける温度帯に注目することです。
β-アミラーゼはタンパク質でできているため熱に弱い性質があります。
β-アミラーゼ自体の至適温度は条件にもよりますが、おおむね40~60℃付近と報告されています。
一方、多くのサツマイモ品種では、デンプンが糊化し始める温度が約70℃前後とやや高いため、「酵素にとって理想的な温度」と「デンプンが糊化して酵素が働ける温度」とのあいだにギャップがあります。
そのため、実際の焼き芋では、芋の中心温度が60~70℃台にゆっくり到達し、この温度帯をある程度保つように加熱することで、デンプンが糊化しつつ β-アミラーゼもまだ十分働ける時間を確保することが、マルトース生成量を最大化するコツと考えられています。
ただし80℃を大きく超える高温域では、β-アミラーゼは急速に失活するため、この温度帯に長時間さらしすぎないことも重要です。
【甘くする調理のコツ】低温でゆっくり加熱、後で高温仕上げ

最高に甘い焼き芋を作る鉄則は「じっくり、ゆっくり」加熱することです。
具体的には、さつまいもの中心温度が約65~75℃に達したらすぐに加熱を終わらせず、その温度帯にできるだけ長く留まらせてβ-アミラーゼに存分に働いてもらうのです。
プロの焼き芋屋さんは遠赤外線効果のある石焼き釜などを使い、ゆっくり芯まで熱を通すことでこの糖化の時間を稼いでいます。
堺市の指導によれば、蜜たっぷりの焼き芋にするためのポイントは「糊化」「糖化」「濃縮」の3段階だとされています。(参考:堺市公式ホームページ『蜜たっぷり!とろける焼き芋を家で作ろう』)
最初に75℃程度で芋を糊化させ(低温でゆっくり加熱)、次にそのまま保温して糖化(酵素反応)を進め、最後に高温で余分な水分を飛ばして糖分を濃縮するという手順です。
例えば堺市の推奨レシピでは、160℃のオーブンで30~60分予熱せず低温加熱→オーブンの電源を切って90分放置(余熱で糖化)→再び160℃で30~60分加熱という工程で、自宅でも蜜たっぷりの焼き芋を作っています。
このように一度加熱を止めて保温することで酵素反応の時間を確保するのがコツです。
一方、電子レンジ調理のように急激に加熱すると内部温度が一瞬で80℃を超えてしまい、糊化や糖化の時間がほとんど取れないため十分に甘くなりません。
レンジ加熱では芋全体の水分が一気に高温化するため、β-アミラーゼが活躍する暇もなく失活してしまうのです。
そのため「時短で一気に加熱 = 甘くならない」と覚えておきましょう。最近では電子レンジ加熱でも甘くなりやすい特殊な品種(前述のクイックスイート等)もありますが、基本的にはオーブンや焼き芋鍋などでゆっくり火を通す調理法が甘さを引き出す王道です。

最後の仕上げとして、甘くなった芋の水分を飛ばして糖を濃縮させる工程も重要です。
ゆっくり加熱している間に芋内部には麦芽糖を含む蜜がたくさん生成されています。
これを適度に蒸発させ濃縮することで、蜜が糸を引くようなとろりとした食感とさらに強い甘みが得られます。
濃縮の際は芋が乾燥しすぎないようにホイルで包んだまま加熱すると良いでしょう。
ただし加熱しすぎると折角の蜜が焦げて苦味が出てしまうため要注意です。
以上、糊化→糖化→濃縮という調理中のステップを踏むことで、さつまいも本来の甘さを最大限に引き出すことができます。
十分に熟成された芋をこの方法で調理すれば、まるで天然のスイーツのような絶品焼き芋に仕上がるでしょう。
熟成・キュアリング・糊化の違いを比較
ここまで、さつまいもの甘さに関わる「熟成(追熟)」と「調理中の糊化・糖化」について解説してきました。
また、生産現場で行われる「キュアリング(curing)」という処理にも少し触れました。
熟成・キュアリング・糊化(糖化)はいずれも美味しさを引き出す重要な工程ですが、その目的やタイミング、メカニズムはそれぞれ異なります。
最後に、これらの要点を整理して比較してみましょう。
| プロセス | 主な目的・効果 | タイミング(期間) | 最適条件(温度・湿度) | 主なメカニズムと結果 |
|---|---|---|---|---|
| キュアリング(収穫後すぐ) | 傷ついた芋の皮を治癒し腐敗を防ぐ。水分蒸発を防ぎ貯蔵性を高める。甘さへの直接効果は小さい。 | 収穫直後(約1週間) | 高温高湿:約30℃、湿度85~95%前後 | 傷口がコルク化し皮が厚く硬化。微生物侵入を防ぎ長期保存に耐える。 呼吸作用で一部デンプンが消費されるが、酵素反応はまだ活発でない。 |
| 熟成(追熟) | 芋内部の酵素でデンプンをショ糖・グルコースなどに分解し基礎甘味を向上させる。食感もしっとり改善。 | 貯蔵中(数週間~数ヶ月) | 涼しい温度:13~15℃、相対湿度85~90%前後(家庭では新聞紙+段ボールなどで乾燥しすぎを防ぐ) | デンプンがゆっくり糖に変わり遊離糖が増加。わずかな水分減少と組織変化により、粉質感が減ってしっとりした食感と甘みが育つ。 |
| 糊化&糖化(調理中) | 加熱でデンプンを糊状化し、β-アミラーゼが大量の麦芽糖へ分解。【調理で甘さを解放】する工程。 | 加熱調理時(数十分~数時間) | 加熱温度:芋内部65~75℃に長く留め、その後高温仕上げ。 | デンプン粒が65℃前後で糊化し酵素アクセス可能に。β-アミラーゼが糊化デンプンを切断し麦芽糖を生成。生成した麦芽糖+濃縮効果で強烈な甘さとねっとり食感の焼き芋が完成。 |
上記表の「キュアリング」は、収穫後すぐに行われる予備貯蔵処理です。
特に大規模生産では30℃程度・高湿環境で4~7日間行われ、芋の表皮の傷を治して腐りにくくすることが目的です。
キュアリング後に13℃前後で本格的な熟成保存に移行します。
家庭ではキュアリングまで厳密に行うのは難しいですが、傷ついた芋をすぐ食べず少し暖かい場所で保管して皮を乾かすだけでも効果があります。
このように、「熟成(追熟)」と「糊化・糖化(調理)」は甘いさつまいも作りの両輪です。
一連のプロセスを経て、収穫したての芋が最高のデザートへと変貌を遂げます。
十分に追熟させたさつまいもを理想的な方法でゆっくり加熱する。
それこそがあの蜜たっぷりの焼き芋を生み出す秘訣なのです。
まとめ

ここまで、さつまいもの甘さの秘密である「熟成」「糊化」「糖化」について詳しく解説しました。
最後に、農家や飲食店などプロの現場で活かせるポイントや、私たちが日常でできる工夫をまとめます。
農家・生産者の場合
収穫後すぐにキュアリングを行い(30℃高湿で約1週間)、その後は13~15℃の貯蔵庫で出荷まで数週間~数ヶ月追熟させるのが基本です。
糖度をさらに上げたい場合、出荷前に10℃程度の低温環境で2~3週間短期貯蔵する低温糖化処理も有効です。
ただし低温障害には注意し、設備のある場合に限定しましょう。
近年は熟成不要で甘い新品種(例:「紅はるか」の改良型「あまはづき」など(参考:農研機構ホームページ『8月の収穫直後から甘いサツマイモ新品種「あまはづき」』))も登場し始めており、品種選びも重要です。
飲食店・調理現場の場合

熟成芋を仕入れるか、自店で生芋を適切に保管して追熟させることで、料理やスイーツの味が格段に向上します。
特に焼き芋専門店では、収穫後1~2ヶ月寝かせた「熟成○○芋」を使用するケースが多いです。
また調理時は低温からじっくり加熱する調理法を採用しましょう。
オーブンや専用焼き芋機で芋の芯温度をゆっくり上げ、65~75℃付近を長めに維持することがポイントです。
例えば石焼き芋は遠赤外線効果で芋内部がゆっくり加熱され、酵素反応の時間が十分確保できるため甘く仕上がります。
反対に電子レンジなど急加熱は避け、時間をかけて焼くことで蜜たっぷりの焼き芋や濃厚なスイートポテトを提供できます。
品種は人気の紅はるか・シルクスイート・安納芋などしっとり系が蜜質の焼き芋に適しています。
一般の家庭の場合
スーパーでさつまいもを買ったら、すぐ調理せずまず涼しい場所で1~2週間以上保存してみましょう(冬場なら室内の寒い場所でOK、夏場は風通しの良い陰など)。
そうすることで芋の糖度が増し甘みがアップします。
保存方法は前述の新聞紙&段ボールがおすすめです。
調理時はオーブンやトースターで低温から焼き始め、途中で火を止めて少し蒸らすなど工夫すると甘さが段違いになります。
実際に「オーブンで加熱→余熱で放置→再加熱」という手順で焼き芋を作ってみると、驚くほど糖度が上がることが体感できるでしょう。
もし時間がない場合でも、アルミホイルに包んで弱火で焼く、炊飯器の保温機能で加熱する等、できるだけゆっくり火を通す方法を試してみてください。
以上、さつまいもの熟成・糊化・糖化について詳しくご説明しました。
普段何気なく食べている焼き芋も、実は収穫後の管理や調理法にたくさんの工夫と科学の力が隠れていることがお分かりいただけたかと思います。
熟成で増えたスクロースや果糖などの「基礎の甘み」と、加熱で生まれる麦芽糖の「仕上げの甘み」が組み合わさって複雑で濃厚な甘さが生まれる――そんなメカニズムを知って味わう焼き芋は、きっと今まで以上に格別なおいしさに感じられるでしょう。
ぜひ皆さんも、さつまいものポテンシャルを最大限に引き出して、ほっこり甘いさつまいもを存分に楽しんでください。
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