
「さつまいもは収穫後しばらく寝かせると甘くなる」という話を耳にしたことがあるかもしれません。
実際、さつまいもは収穫直後より一定期間保存(熟成)した方が甘味が増し、ねっとりとした美味しい焼き芋に仕上がることが知られています。
この「さつまいもの熟成」(追熟ともいいます)とは、収穫後に芋を適切な環境で保管し、内部のでんぷんを糖にゆっくり分解させて甘みを引き出すプロセスのことです。
本記事では、さつまいもを熟成させる意味とそのメカニズム、さらにご家庭で甘くするコツについて、専門家の視点からやさしく解説します。
(※さつまいもの甘さに関しましては『さつまいもの甘さの秘密|「熟成」「糊化」「糖化」とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。)
熟成で甘みが増す仕組み

収穫後のさつまいもは呼吸を続けており、生命活動のエネルギー源として自ら蓄えたデンプンを少しずつ分解します。
その際に酵素の働きでショ糖(スクロース)やブドウ糖などの糖分が徐々に増えていき、時間とともに芋自体の甘さが増していきます。
言い換えれば、熟成とは加熱調理をする前に甘みを仕込むための下準備とも言える工程です。
収穫直後のさつまいもは主成分がデンプンで、可溶性の糖(ショ糖やブドウ糖など)はごくわずかしか含まれません。
しかし、貯蔵中の1~2ヶ月ほどで糖化が進み、ショ糖などの糖分が大幅に増加します。

多くの品種では貯蔵開始からおよそ2~3ヶ月で糖度の上昇が頭打ちとなり、それ以上置いても甘さはあまり変わらなくなると報告されています。
例えば、品種「高系14号」を13℃で保存した場合、収穫120日後には芋に含まれるショ糖が初期の約3倍に増えたとのデータがあります。(参考:『収穫後のサツマイモへの低温処理が糖含量ならびに貯蔵性に及ぼす影響』)
京都教育大学の研究(鳴門金時、温度調節なしで貯蔵)では、生イモ汁のBrix糖度が収穫直後6.6%から3か月後13.7%に上昇したと報告されています。(参考:京都教育大学環境教育研究年報 第20号 109-117(2012)『サツマイモの貯蔵にともなう品質変化』)
つまり、2~3ヶ月間の熟成によってさつまいもの甘さ(糖度)は収穫直後の2~3倍にも高まるわけです。

こうして熟成によって増えた糖分(主にスクロース)が、さつまいもの潜在的な甘みの土台を形成します。
さらに熟成は甘み以外の効果ももたらします。
貯蔵中の呼吸で少しずつ水分が抜け、細胞組織が変化することで、加熱後の食感が収穫直後よりもしっとりとなめらかになることが報告されています。
一方で、あまりに長く貯蔵しすぎると重量減少や発芽によってかえって品質が低下する場合もあるため注意が必要です。
以下は、新芋(収穫直後のさつまいも)と熟成芋(収穫後数ヶ月経過したもの)の甘さや食感の違いをまとめた比較表です。
| 状態 | 糖度※ | 味の特徴 | 加熱後の食感 |
|---|---|---|---|
| 収穫直後(新芋) | 約6~8% | 甘みは控えめでホクホクとした素朴な風味。 | 加熱すると粉質でホクホクした食感。蜜が染み出すことはほとんどありません。 |
| 2~3ヶ月熟成 (熟成芋) | 約13~14% | 糖が増えて強い甘みが感じられ、芋そのものの風味も濃厚になります。 | 加熱すると水分が適度に抜け、ねっとりしっとりとした食感。焼くと蜜がにじむほど甘くなります。 |
※糖度は、屈折糖度計で測定するBrix値をベースにした参考レンジです(研究例より)。品種・貯蔵条件・測定方法により変動します。
※糖度に関しましては『さつまいもの糖度(Brix値)とは?甘さの指標「糖度」の秘密』のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。

新芋ならではの爽やかな風味やホクホク感も魅力的ですが、焼き芋にしたときの甘さを最大限に引き出すには、この熟成による「寝かせ」の期間が欠かせません。
実際、人気品種の「安納芋」や「紅はるか」も収穫直後は甘みが弱く粉っぽい食感のため、収穫後まず低温で貯蔵してデンプンの糖化を促してから出荷するのが一般的です。
そのため最も早い出荷時期でも9月下旬以降となります。
近年では、貯蔵しなくても収穫直後から甘い新品種「あまはづき」のような例外も登場していますが、基本的にはさつまいもは収穫後にしっかり熟成させてこそ本来の甘さが引き出される野菜なのです。
なお、熟成(貯蔵)に加えて、加熱中にでん粉の糖化を促す酵素が働くため、焼き方(温度帯や加熱時間)によっても甘さの感じ方は大きく変わります。
熟成に適した保存条件

さつまいもを甘く熟成させるには、保管環境(温度・湿度)がとても重要です。
さつまいもの貯蔵適温は概ね12〜15℃(目安13〜15℃)とされ、9〜10℃以下では低温障害(寒害)で腐敗しやすくなります。
逆に18℃以上では発芽しやすく、養分を消耗して品質が落ちやすいため注意が必要です。
そのため、長期保存にはおよそ13~15℃程度の温度を保つことが理想とされています。
この温度帯であれば低温障害や腐敗を防ぎつつ芽の発生も抑えられ、さつまいも自身のデンプン分解酵素が無理なく働き続けて糖を蓄積するため、時間をかけて甘みを引き出すのに最適です。
実際、農家の貯蔵庫でも約13℃に温度管理された環境で数ヶ月保存し、十分に甘みを乗せてから出荷することが一般的に行われています。

また、適度な湿度を保つことも重要です。
乾燥しすぎると芋がしなびて品質が落ちてしまうため、貯蔵中はできれば80~90%程度の高めの湿度を維持するのが望ましいです。(文献では貯蔵時に90%程度以上の高湿度を維持する例も紹介されています。)
ただし密閉して湿気をこもらせるとカビの原因になるため、通気にも気を配ります。
農家では専用の貯蔵庫や冷蔵設備で温度13℃前後・湿度85%程度に管理し、品種に応じて1~2ヶ月熟成させてから出荷しています。

なお、収穫直後の芋を安全に長期間貯蔵するために、生産現場ではまずキュアリング(curing)と呼ばれる処理を行うことが多いです。
生産現場で行われるキュアリングは、掘取直後の塊根に対して4日間程度、30〜33℃・湿度90〜95%の環境を与え、傷口の治癒(保護層形成)を促す処理として紹介されています。
キュアリング後は速やかに温度を13〜15℃の貯蔵適温まで下げ、高湿度(90%程度以上)で貯蔵します。
キュアリングによって熟成中の腐敗リスクが減るだけでなく、芋の中ではデンプンの分解が進み始めて糖が増え、肉質も柔らかくなるメリットがあります。
ご家庭でできるさつまいもの追熟方法
では、家庭でさつまいもを追熟させて甘くするにはどうすれば良いでしょうか。
ポイントは、前述の「理想的な条件」にできるだけ近い環境を再現することです。
洗わずに新聞紙で包んで通気を確保

専用の貯蔵庫がなくても、ちょっとした工夫で比較的簡単に実践できます。
まず、市販のさつまいもを購入したら洗わずに土が付いた状態で保存するようにしましょう。
さつまいもは水気に弱く、水洗いすると腐りやすくなるため、(家庭菜園の掘りたてなどは)泥つきのまま表面を乾かしてから貯蔵するのが基本です。

芋は一本ずつ新聞紙で優しく包み、通気性のある段ボール箱に重ならないように並べて入れます。
新聞紙は適度に湿度を保ちながら余分な水分を吸収してくれるので、芋の保存に理想的です。

さつまいもは収穫後も呼吸しているため、密閉は避け、箱に空気穴をあけるなど通気を確保しましょう(蒸れはカビ・腐敗の原因になります)。
13~15℃前後で安定する場所

保管場所も重要です。
冬場であれば暖房の効いていない部屋の隅や廊下、床下収納など、室温が13~15℃前後で安定する場所が適しています。
寒冷地で室内も10℃以下に冷え込む場合は、比較的暖かいリビングの高い棚の上などに置くといった工夫も有効です。
逆に気温の高い季節は直射日光の当たらない風通しの良い涼しい場所を選びましょう。
いずれの場合も冷蔵庫での保管は避けてください。
家庭用冷蔵庫(庫内温度約5℃)に長く入れておくと低温障害で芋が傷み、甘みが損なわれてしまいます。
1~2ヶ月程度保管

熟成に必要な期間は、手に入れたさつまいもの状態や品種によっても異なりますが、十分に甘みを引き出すには少なくとも数週間~1~2ヶ月程度は寝かせておくのが理想です。
途中で状態を確認しつつ、味見をしてみるのも良いでしょう。
例えば1ヶ月経過した時点で一度焼いてみて、さらに甘さが欲しければあと1~2週間追熟させる、というように段階的に試すことで違いがよく分かります。
追熟中に芋から芽が出てきてしまった場合は、品質劣化のサインなので早めに食べてしまいましょう。

傷んだ箇所が見られる芋も放置せず、食べられる部分は調理してしまう方が安全です。
条件管理に神経質になりすぎず、「少しでも傷みそうなら早めに美味しくいただく」くらいの気持ちで、気軽にチャレンジしてみることをおすすめします。
なお、スーパーで売られている表面が水洗いされている芋は、水分や表皮状態の影響で傷みやすい場合があります。
追熟の進み具合は一概に判断できないため、洗い芋は長期保管前提で「買いだめしない」「早めに食べる」を基本にすると安心です。
逆に、家庭菜園で掘りたての芋は、晴天の日に泥つきのまま風通しのよい日陰で1〜2日、表面の水気を飛ばす程度に乾かしてから貯蔵すると傷みにくくなります。
表皮をしっかり乾燥させてから先述の方法で貯蔵することで、カビの発生を防ぎ安心して熟成させることができます。
まとめ

さつまいもは収穫後に熟成(追熟)させることで格段に甘さがアップし、焼き芋にしたときの風味と食感が大きく向上します。
熟成とは、芋の中のデンプンを糖に変えて甘みの下地を作る大切なプロセスです。
美味しい焼き芋を作るには、この「寝かせ」のひと手間が欠かせません。
幸い、ご家庭でも新聞紙と段ボールを使った簡単な方法で追熟させることができます。
ポイントは芋を低すぎず高すぎない適温(13~15℃前後)で保管し、数週間から数ヶ月じっくり待つことです。
そうすることで、収穫直後には感じられなかった濃厚な甘みが引き出され、蜜がたっぷり染み出す極上の焼き芋に育ちます。
ぜひ皆さんもさつまいもを上手に熟成させて、本来の深い甘さを存分に味わってみてください。
サツマイモの甘さと健康の秘密
サツマイモに含まれている栄養素や甘くなる仕組みをご紹介します。
さつまいもの甘さの秘密|「熟成」「糊化」「糖化」とは
さつまいものポリフェノールの効果とは?
さつまいもの食物繊維|水溶性・不溶性のバランスと腸活効果
さつまいもの甘さの秘密「β-アミラーゼ」を分かりやすく解説します
「ヤラピン」とは|サツマイモ特有の成分を分かりやすく解説
焼き芋の「レジスタントスターチ」とは?
「焼き芋ダイエットで太った…」は勘違いじゃない!本当の理由と痩せる食べ方
焼き芋のカロリーは?|「1本」や「100g」のカロリーの目安
焼き芋の日持ちはどれくらい?自家製・市販品の保存方法と長持ちのコツ
焼き芋のサイズの重さの基準とは?焼き芋の重さの疑問におこたえします!
焼き芋のビタミンCは壊れにくい?含有量と健康効果を徹底解説
焼き芋のコレステロールって、どれくらい?
冷凍焼き芋の基礎知識
焼き芋は冷凍するとまずい?冷凍した焼き芋の味が変わる仕組み
冷凍焼き芋の「急速凍結」と「緩慢凍結」の違い|ポイントは「氷の粒」だった!
焼き芋の「レジスタントスターチ」とは?
焼き芋を「上手に冷凍する方法」をわかりやすくご説明します
冷凍焼き芋の解凍方法|失敗しない温め方とおいしく食べるコツ
干し芋の冷凍保存|冷凍のメリットと解凍のコツを分かりやすくご説明します
さつまいもスイーツ





















